探究科 座談会その6-後編-

SCROLL

SPECIAL

2022.09.12UP

それぞれのスタイルで生徒をサポート。大事なのは、“個”の状態。

MEMBER

池谷陽平探究ドライバー

眞鍋綾探究アーティスト

上月龍太郎探究クリエイター

佐藤佑平探究ストラテジスト

牛込紘太探究キュレーター

さあ授業が始まる。その時、
探究の教師は何を思い、どう行動する?

後編のトークテーマは、授業のファシリテーションについて。押していく、引っ張っていく、並走する。さまざまなスタイルがある中で、教師たちは思考し、また葛藤し、それでも生徒たちの不安を取り除き、効果を高めるために取り組んでいます。

収録日:2022年6月16日

Theme1

声をかけるか否かは永遠のテーマ。
“やる気がない”のも、多様性??


池谷

次は授業のファシリテーションについて話していこうか。生徒たちの前で話す時に意識していることってあるかな。


牛込

私は自分が使う「言葉」は大切にしていますね。スライドを用いて説明する時も、より噛み砕いた言葉を付け足すなど、生徒たちの反応を見ながら変えるようにしています。


池谷

なるほど。それって単に簡単な言葉を使えばいいというわけではないと思うけど、言葉の選び方に基準はありますか?


牛込

生徒の考えを固定化するような言葉は使わないようにしていますね。我々からのオーダーは抽象度を高めにすべきで、それによって制約がうまれてしまってはいけません。


池谷

たしかに教師の主観が入ってしまうと、思考の幅を狭めてしまうかもしれない。だから生徒の個性を尊重する言葉遣いは意識すべきことのひとつですね。

教師の発言によって、制約がうまれることを危惧する『探究キュレーター』の牛込先生。


上月

少し話は変わりますが、僕の中でずっと答えが出ないことがあるんですけど、みなさん、生徒たちの“授業の受け方”に対して、声をかけることってあります?


池谷

それは生徒の授業態度ってこと?


上月

はい。シンプルに言えば「やる気のない生徒」ですね。それをよしとするか否か。そういう子に対して「それも君の個性だ」と捉えてしまえば、それで終わりじゃないですか。とはいえそれを多様性とまとめていいかと言われると、そうではない気がしていて……。


池谷

例えば探究の授業で、課題を適当に終わらせてあとはYouTubeを見ていたり、数学は苦手だからってずっと寝ていたりする生徒はいるよね。


上月

そうなんです。個性を尊重するということも、多様性を認めるということも、本当に大切だと理解はしています。ただそれは一生懸命やった先にあるものだと僕は解釈していて。いま池谷先生が例に出してくれたような子たちは、そこに至っていないと思うんですよね。でも人によって考えの違いはあって、それを強制的に変えるのは違うのかなと感じるので、自分の中の永遠のテーマになっています。


池谷

なるほど。今はどうやって接しているの?


上月

ロールパンナちゃんになっています。


眞鍋

え?(笑)


上月

いや、アンパンマンに出てくるロールパンナちゃんって、悪い心といい心が分かれているじゃないですか(笑)。だから「君がいいなら、それでいい」っていう時もあるし「もっと前向きに取り組みなさい」って注意をする時もある。生徒からしたら「前と反応が違うやん」って思われているかもしれへんけど、なるべくバレないようやっているつもりです。


眞鍋

確かにそれって難しい問題ですよね。いつもと態度が違いすぎる生徒がいたとして、こちらとしては声をかけたいけど、それは「声をかけないで」っていうサインかもしれないし。


上月

そうそう。しかも教師にその気がなくても、生徒たちは声をかけられると、自分はダメなことをしているって解釈しがちなんですよね。ただ普通に話しかけているだけなのに、注意されていると捉えるケースも多くて。だから本当に難しい。

授業態度にどこまで関与するか。それが『探究クリエイター』の上月先生の悩みです。


池谷

声をかけることで、プレッシャーを感じさせてしまうこと、あるよね。


上月

はい。例えば“後半追い越し型”でめっちゃ頑張る子がいるんですよね。その状態に入る手前で声をかけてしまった時なんかは、めちゃめちゃ後悔してしまいます。「今まさに、それをやろうと思ってました」と言われたことがあって。


池谷

「ちゃんとやろう!」って言ってしまった瞬間、逆にその子のやる気をすべてなくしてしまうってことか。


上月

そうなんです。だからギリギリまで待つってことが大切なんでしょうね。


池谷

うん。どれだけ待てるかって本当に大事。でもやっぱりアドバイスのつもりで口出しちゃう。「ただ見守る」って、心が強くないとなかなかできないよな。

個性も多様性も
一生懸命にやった
先にあるもの。

Theme2

先頭か最後尾、もしくは並走。
スタイル別に見るファシリの方法。


上月

授業のファシリテーションって、2種類のスタイルがあると思うんですよ。ひとつは生徒の先頭を立って引っ張っていくやり方。もうひとつはいちばん後ろから背中を押してあげるってやり方。みんなはどっちですか?


眞鍋

私は後ろから押してあげる方ですね。


佐藤

僕も背中を押してあげているつもりです。


上月

僕は引っ張っていくタイプなんですよね。そもそも1コマの授業は、全体の活動の中のひとつのピースだっていう認識だから。これ自体は楽しくなくても、最後には全体を通して絶対楽しくなるからついてきてくれ、みたいな。もちろん毎回楽しければいいけど、そうはいかないので。

上月先生のひと言をきっかけに、話題はファシリテーションのスタイルへと移っていきます。


池谷

牛込先生はどっちのスタイルですか?


牛込

僕も眞鍋先生や佐藤先生に似ていて、生徒と一緒に考えてあげたいと思っている派。でも結局、考える時は生徒はひとりでしかないでしょ? だから引っ張っていこうとも、押してあげようとも思わずに並走しているイメージかもしれません。めっちゃ前を走る子もいればすごいゆっくりな子もいて、その両方に合わせて授業を進めるのは無理があって、互いに疲労度が高まってしまいます。その時にそれぞれのペースに私が合わせるのが大切にしていることですかね。


上月

今の牛込先生の話を聞いて思うのは、僕は授業づくりの段階では、どの先生がファシリテーションをするとしても「ここまではいってほしい」っていう先導の気持ちがうまれるので、引っ張り型。そして実際の授業でファシリテーションをする時には、生徒と一緒に考えてゴールに向かうスタイルなので、牛込先生がいった並走型。そんな感じかもしれません。


池谷

なるほど。そういう切り分け方もあるよね。


上月

はい。ファシリの時は「こんな高い目標を設定しやがって!」って、ブツブツいいながら生徒と一緒にやってます(笑)


佐藤

そんなこと言っているんですか!(笑)


上月

いやイメージよ。イメージ!(笑)


池谷

押してあげる側って言っていた眞鍋先生は、どういったところから?


眞鍋

例えばクラス全体が言葉を発しにくい空気になっていたら、それを取り除くためにまずはゲームをすることがあります。やはり生徒の不安要素をすべてなくしたいと考えることが多いので、背中を押すタイプかなって思いますね。


池谷

たしかに眞鍋先生は、導入の部分でわりと時間を使うよね。


眞鍋

そうかもしれません。まずは枠を取り払うというか、そういうところに力を注ぎたくて。


池谷

それって授業づくりのレベルから考えてること? ファシリの段階だけ??


眞鍋

どっちでもやっていて、特にファシリでは意識していますね。あるクラスではうまくいっても、他ではそうではないこともあるし、毎回生徒を見ながら変えている感じです。あと1時間目なのか、7時間目なのかなども変える基準のひとつですね。生徒の反応を大切に考えるので、授業づくりの段階から、自分が授業する姿を思い描いています。


池谷

自分がファシリしているのが前提の授業づくりなんだね。そこが上月先生との違いかな。


上月

たしかに違いますね。僕は基本的にそこは別々に考えているので。

生徒が感じる不安要素はすべて取り除くのが大切だと語る『探究アーティスト』の眞鍋先生。


眞鍋

だから私と上月先生は似ているってよく言われているけど、「似ていないです」って声を大にして言いたい(笑)


上月

なんでわざわざ大にすんねん(笑)


池谷

いや、似ていると思うよ。即興でチェックインするところとかね。ただ他の先生はもう手を動かすところまで進んでいるのに、眞鍋先生のクラスだけまだチェックインしていて「大丈夫なん?」って思うこともあるけどね。


上月

俺はわりと時間は守る方ですね。


池谷

うん。だからそれぞれに合ったやり方があるってことやね。

生徒の不安要素を
すべてなくしたいと
考えることが多い。

Theme3

待つ。そして観察する。
個の状態を把握して判断するために。


池谷

では佐藤先生はどう?


佐藤

僕も上月先生と同じで、授業づくりの段階では、自分がファシリをしている姿はまったくイメージしないですね。その授業で到達すべき目標があって、そのために何をすればいいかだけを考えています。ファシリテーションでは、生徒一人ひとりにかなり意識を向けているつもりです。例えば最近の高1の授業はすぐに手を動かす時間にしていて、そこからそれぞれの生徒に声をかけるようにしているので、自分は背中を押してあげるタイプだと感じていますね。


眞鍋

佐藤先生はクラスに馴染むのが本当にうまいですよね。


池谷

たしかに。佐藤先生が入ったら、どんなクラスでも10分くらいでみんなが興味津々になっている。

目標を叶えるためにどうするかを考え、生徒一人ひとりに意識を向ける『探究ストラテジスト』の佐藤先生。


眞鍋

たぶん周りのテンションに合わせるのがうまいんですよ。去年私のクラスを担当してもらった時に「今日はみんなテンション低いな……」って思っていても、佐藤先生の探究が終わった後だとめっちゃ盛り上がっているんですよね。クラスの状態がよくなくても、それに合わせられるというか。だから生徒たちも授業を受けやすくて、気づいたらテンション上がっています。


上月

もはやカリスマやな。


佐藤

やめてください(笑)。たしかに空気感みたいなのはすごく大切にしていますね。みんながしんどそうにしているなら、僕も無意識のうちにそれに合わせた態度をとっているというか、そういう授業になっているかもしれません。


上月

生徒に同調していくんやね。


池谷

たしかに佐藤先生は生徒たちの状態に合わせていくイメージがある。それにしても、みんな授業うまいよな。


牛込

……なんだか、後付けのように言われましたね(笑)。とりあえず他の3人も褒めておこうみたいな。


上月

頑張ろうな……俺らも。


池谷

いや、違う違う(笑)。やっぱり授業のファシリテーションってめちゃくちゃ難しいからさ。というのも、俺は自分のこと、授業がめっちゃ下手やと思っていて。なかなか満足のいく結果が出ない時もある。でも同じプログラムやのに、他の先生がやると大成功になることも多くて。だから全員うまいなと思ってる。

『探究ドライバー』の池谷先生は、生徒のスタンスを知ってから授業への意識に変化があったと話します。


上月

ちなみに池谷先生のスタイルはどうですか?


池谷

ちょっと前までは引っ張りタイプで、すごい目力を入れて話したりしていた。導入でどれだけ方向性を示せるかで、授業の2時間すべてが決まるって信じてたし、生徒のエンゲージメントを高くできないっていうのがすごく怖かったんよね。でも実はこっちが力強く言わなくても意外とみんなやる気があったりするってことに気づいてからは、淡々と導入するようになったかな。その場の空気に任せるっていうか。いまは何より待つ心を大切にしている。


眞鍋

さっきも話しましたけど、待つって本当に大切ですよね。


池谷

うん。あとは観察。生徒たちが何を考えているかを理解するのは本当に難しいから。


眞鍋

私たちにもこの前「とにかく観察してほしい」って言っていましたもんね。


池谷

そうそう。現実的に言って、授業を進めながら同時に40人を見るのっていうのはできない。だからテーマを投げた後は、生徒たちを放置する時があってもいいと思う。こっちが何もしない状態であれば、全員を見ることができるからね。その時間がめっちゃ大切。極端な話、生徒の名前覚えるよりも、状態を把握する方が大切と思っている。


佐藤

そんなにですか!


池谷

うん。最近はそう思ってるかな。ということで、最後にここまで話したことをまとめたいなと思っています。僕たちが授業のつくり方、そして実際に教室でファシリテーションをする上で大切にしていることってなんだと感じた?


眞鍋

状態、かな?


牛込

ちょっと付け足すとしたら、個の状態ですかね。


上月

そうですね。それに尽きると僕も感じています。


池谷

すべては生徒の状態を見て判断するってことやね。


上月

そう考えるとどこのクラスでも馴染む佐藤先生は、状態の把握がめっちゃうまいんやと思います。いつの間にか教室のイスに座っていて、気づいたら生徒に寄り添っているって感じ。


池谷

今もすでに次の授業の教室にいるかもしれない。


佐藤

いや、ここにいます。ほら、僕、今ここに(笑)

いまは何より
待つ心を
大切にしている。

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