武蔵野大学中高学園長 日野田直彦

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INTERVIEW

2021.12.22UP

数々の“奇跡”を巻き起こした3人の挑戦は、今なお続いていく。(後編)

PROFILE

日野田直彦

武蔵野大学中高学園長

1977年生まれ。帰国子女。帰国後、同志社国際中学・高校に入学し、当時の日本の一般的な教育とは一線を画した教育を受ける。
同志社大学卒業後、馬渕教室入社。2008年奈良学園登美ヶ丘中学・高校の立ち上げに携わる。
2014年大阪府の公募等校長制度に応じ、大阪府立箕面高等学校の校長に着任。着任後、全国の公立学校で最年少(36歳)の校長。
着任3年目に入り、海外トップ大学への進学者を含め、顕著な結果を出す。
2018年より武蔵野大学中学/高校の校長に着任。
著書『なぜ「偏差値50の公立高校」が世界のトップ大学から注目されるようになったのか!?』がアマゾンベストセラー(学校教育一般)。


INTERVIEWER

池谷陽平・髙木草太

探究Driver・探究Designer

Theme1

日本中にその名を轟かす瞬間。
のべ36名が海外へと進学。

(前編はこちら

先述の経緯もあって、僕は“監視役”として髙木先生の授業をすべて見ていました。するとスーパーイングリッシュティーチャーであるにもかかわらず、そもそも英語を教えていないんですよね。それよりもっとベースの考え方というか、「日本語を使う人と英語を使う人の思考回路が全然違う」ってことを説明して、英語を使う人の思考回路を理解しないと、日本語の頭のままでは、英語の文章がどういう構造になっているかがなかなか読み解けないといったことをきちんと教えてて。

確かにそんな授業をやっていましたね。

普通の英語の授業でそんな教え方はしないので、英語教師である僕自身も「へ〜、なるほどな……」と思いながら、聞いていました。

やはり日野田先生から「好きにやっていいよ」とお墨付きをもらったので、“いちばん変なやつ”で許されるというか、そういう感覚はありました。『国際科』の2クラス以外は誰も来ないラプンツェルの塔みたいなところに閉じ込められて(笑)、なんでも好きなことができたんですよ。周りの先生からすると浮いた存在だったかもしれないけど「あいつはそういうやつだから」って許されていたと思います。

それも作戦でした。そういう場所に置いた方が、徐々に浸透させられますからね。初めから真ん中に置いて新しいことをやると、攻撃されることも多くなっちゃうので。どちらにしても「髙木先生がいい先生だ」ってことは、どうせ生徒にも他の先生にもすぐ分かるわけだし。

あと「スーパーイングリッシュティーチャーは英語だけを使って授業をする」というルールがあるんですけど、髙木先生はずっと日本語で。その中でたまに出る英語の発音がめちゃめちゃネイティブだから、生徒はそこに食いつくわけです。

僕もあるんだけど、それって正しい日本語が出てこないだけじゃない?(笑)

両方ありますね。日本語が分からないから英語で言って「雰囲気で伝わってくれ!」って言う時と、日本語も分かっているけど「ここは一発、カマしたれ!」って時と(笑)

箕面高校での充実の日々と、短期留学先の苦い記憶を回想する日野田氏。

2015年には、以前にこの『オードライブ』にも登場していただいたタクトピアという企業とコラボレーションすることで、夏休みに短期留学プログラムを進めていきました。やはりあれが大きなターニングポイントになったと思います。

うん。ただいわゆる中堅校である箕面高校の生徒たちに、『ハーバード』だとか『MIT』だとか言ってもあまり響かなかったようで、初年度は40名の募集に対して、28人しか集まりませんでした。でもその28人がカルピスの原液みたいな子どもたちで。本当にもうトラブルばっかり(笑)

あれはある意味“ドリームチーム”でした(笑)

アメリカに行ってから、チームが崩壊しましたね(笑)

実際の内容としては、2週間現地に入って、例えばハーバードやMITのメンバーと意見交換をしたり、Googleのオフィスを視察したりっていう、けっこう凄まじいプログラムでしたよね。

そうなんです。だからはじめはただの憧れだけで集まった28人だったと思うけど、あまりに濃い経験をしたことで、みんなインスパイアされていましたよね。それが周りに伝わっていって、1年目は定員割れしたけど、2年目、3年目と、説明会には300世帯が集まって。

留学の費用は60万程度かかります。それも日野田先生が、得意の「公立の学校とやった実績がほしいよね?」っていう交渉をしてくれて、だいぶ値下げしてもらった額ですけど。普通の公立高校に通う生徒の家庭が60万円を出すって、大変なことだと思います。それでもそれだけの人数が集まりました。

会場が暑苦しくて仕方なかったもん(笑)

さらに大変だったのは、実際にアメリカに行った2週間でした。決して遊びに行っているわけではなくて、さっきも言った通り、本気すぎるプログラムだったから……。

そうなんです。本当にアメリカの大学に通うことを前提にしていたから、「朝の3時までは寝かせないよ」っていう(笑)。引率した我々もそれに付き合っていたので、もう本当に大変だった。生徒たちが深夜に何度も僕たちの部屋に来て、泣きながら「話を聞いてください」って。それに対応しながら、僕たち教師は、順番に床で寝るっていう(笑)

あの時はね……「お前たち、頼むからもう寝てくれ」って思っていました(笑)

生徒たちも本当にしんどかったと思います。でもそれと同時に、とてもいい経験をしたんじゃないかな。

うん。後から考えると、海外の大学に進学した生徒の8割は、夏にボストンかシリコンバレーに短期留学で行っているんですよね。

2週間だけでは物足りなく感じた結果、海外進学という選択になったんでしょうね。

池谷先生は「海外進学者を増やすことが目的ではなかった」と強調します。

そうやって海外の大学に進学する生徒の数字が増えてきたことで、業界の中で箕面高校のことが話題になり始めました。でもずっとメディアの取材などは日野田先生が止めていましたよね。

そうです。はじめは「全国最年少の民間人校長」っていうことで、たくさんの取材依頼が来たんですが、すべて追い返していました。なぜなら校長にスポットが当たっても意味がなくて、生徒に注目してもらわないとダメだから。僕たち教師は黒子であるべきなんです。でも今の日本は「ヒーロー」とか「カリスマ」、「救世主」みたいなものを求めたがります。でもそれをやるとファシズムの温床になりかねない。大切なのはそれぞれの個人が自立することであって、特別な必要がない限り、私自身が前に出る必要はありません。その考えはあの頃も今も変わってないですね。

どのタイミングで取材を受けるようにしたんですか?

やはり実績が伴った時ですね。それはつまりは海外の大学への進学者の数です。否定できないレベルまで実績を出せば、誰もネガティブな意見が出せないし、反論もできないから。逆に反論の余地があるような中途半端な状態で世の中に知れてしまうと、変な邪魔が入って、結果的に生徒が傷ついてしまいます。僕にとって一番大事なのは生徒なので、それだけはないように注意していました。

その中で、きちんと伝わっていない部分があるとすれば、我々としては「海外進学者を増やすことを目的にしたことは一度もなかった」っていうことですよね。

そうそう。「むしろ危ないから止めておけ」って、全力で止めてましたからね。もちろん同時に「海外の大学に入ることには、これだけの価値と意味がある」っていうことも伝えていました。あとは本人次第です。それらを総合的に判断して、それでも本当に留学したいなら、両親にちゃんと説明して、お金を払い続けることができるかどうかまでを確認してから行きなさいと。できれば日本の大学に進んで、そのあとに交換留学で行った方が安全なんでね。

僕個人としては、海外の学校に行った方が楽しいと思っています。だけどそれって僕が“行って楽しめる人”だからなんですよね。もちろんすべての生徒がそうではないので、そこを教師が見定めてあげられるといいかなと思います。例えば当時「ハーバードに行きたい」って言っていた生徒もいて、「なんで?」って聞くと「有名だから!!」って。「じゃあやめな」って(笑)

そんなこともあったね(笑)

だけどその生徒はそこから真剣に考え始めて、あきらめることなく何度も話をしにきて。最終的にはつきっきりでメンタリングしていました。つまり大袈裟な理由がなければ海外に行くべきではないと言っているわけではなくて、どんどん出ていけばいいと思います。ただそのために本気で頑張れるようなマインドセットの醸成こそが、我々ができないといけないことですよね。

結果的にはのべ36名が海外の大学へと進学したんですよね。これはやはり快挙と言っていい。

でもここで重要なのは「36」という数字ではなくて、それだけの子どもたちが自分の将来に対して肯定的に、そして積極的に行動するようになったっていうことなんですよね。そういう姿勢の変化の結果として、海外の大学に行くのか、日本の大学に行くのか、もしくは大学に行かないのか、そこは重要じゃないから。

うん。メディアは「海外進学者を何名出した!」みたいな文脈で取り上げるけど、そのために頑張ったわけでは決してなかったよね。

重要なのは、数字ではなくて、
自分の将来に対して肯定的に、そして積極的に
行動するようになったっていうこと。

Theme2

ひとつの終わりは、また次へのはじまり。
濃密な時間を経て、それぞれが今に至る。

そうやって濃密な時間が過ぎていき、日野田先生が赴任してから4年が経ったタイミングで、我々3人は同時に箕面高校を去ることになります。

もともと僕は3年の任期だったんですけど、「1年、延長してほしい」とお願いされて、4年目まで勤めました。さらにその後も延長の依頼があったんですが、あまり長くいることで「箕面高校=日野田」というイメージができてしまうと、学校が自立できなくなってしまいます。「日野田じゃないとできない」という状態をつくってしまってはダメなんです。

箕面高校でつくり上げたものが、自分が去ることで変わっていってしまうことに残念な思いなどはなかったですか?

そもそも公立の学校は異動があるものなので仕方ないと思っていました。ただ異動した先で、先生たちがまた徐々に広めていくこともできるので。そういう意味では公立の方が自分の考え方が広まっていくとも言えますよね。教師の異動が繰り返されることで、薄まるんだけど、広がっていく。

そうですね。僕はあのタイミングで、大阪でもっとも偏差値の高い公立の進学校への異動の話がありました。でもそこでは箕面高校でやってきた先進的な取り組みができるようには思えなかった。僕はとにかく、日野田先生の監督のもとで、高木先生と一緒に地道につくってきたプログラムをずっとやりたかったんです。そんな時にたまたま追手門から声をかけてもらい、考えていたことができそうだったので、転職することにしました。そこから『探究』の授業ができる2020年までは、英語の授業の中でそれをやっていた感じですね。

僕は箕面高校を離れたタイミングで、外部企業として箕面高校にプログラムを提供してくれていたタクトピアという会社に転職し、結果的に2年間働きました。

でも僕がやっぱり髙木先生と一緒にやりたくなって、追手門に引き抜いた形ですね。自分ひとりだけでは、できることに限界があると感じて、「草ちゃん、助けて」と(笑)

客観的に見て、この2人が『探究』の授業を受け持っている追手門という学校はすごいと思いますよ。あえて言い切ってしまうなら、西日本でそれをまともにやれているのは、この2人以外だと、ごくわずかな例を除いて、ほとんどないと思います。と思います。もちろん探究をやっている“老舗”の学校はありますけどね。そうではなくて、新しい時代を切り拓きながら、それを外に広げているという意味では、そう断言できると思います。

ありがとうございます。さすがに言い過ぎだと思いますけど(笑)

でも「『探究』と銘打って、こういう取り組みをやっていますよ!」って自慢するためにやっているような人がいるのも確かだから。ただ「それを受けて生徒がどう変わったの?」という定量的な分析をしながら、チームとしてさらなる変化や更新を図っている学校は未だ少ないはず。だから僕は池谷先生と髙木先生を本当にリスペクトしていますよ。

日野田氏はかつての部下たちに対する大いなるリスペクトを語ります。
髙木先生は民間企業を経て、現在2回目の池谷先生の同僚に。

日野田先生は箕面高校を離れた後、今も校長をされている東京の武蔵野大学中学校・高等学校へと移られましたね。

そうです。実はここも含めて複数校から校長就任の依頼を受けていました。その中でなぜ武蔵野を選んだかというと、正直言ってこの学校は経営状態が良くなくて、かなりの負債を抱えていた状態だったから。そういう学校の方が面白いかなと思って(笑)

日野田先生らしいなぁ(笑)

実は東アジアのユニコーン企業のカントリーマネージャーをしてほしいという依頼も受けていて、報酬としてものすごい金額も提示されていました。そこは教育とはまったく関係のない事業を行っている会社です。

それでもやはり「学校」という場所を選んだんですね。

そうですね。僕の中には「日本の教育を変えるべきだ」っていう至上命題があるので、給料よりもソーシャルインパクトが大きいことが重要なんです。学校経営がうまくいっていないこの学校で再生モデルをつくることができれば、公立でも成功して、さらに私立でも成功したという実践例をつくれて、多くの人に「何事も無理なことはない」と認識してもらえるし、より大きなインパクトを残せるんじゃないかという仮説の元に、武蔵野の校長になることを選択しました。

なるほど。髙木先生は箕面高校の3年間を経て、今感じることってある?

箕面高校で教師として働いた後、タクトピアでたくさんの学校にプログラムを提供して、さらにそこから追手門の教師となって感じたのは、箕面高校も含めて自分がいなくても同じくらい素敵な成長をしてくれたであろう生徒たちのおかげで、自由にできていたんだということですね。その上で、いま初めて日本のボリュームゾーンを目の当たりにしている感がありますね。つまり本当に自分ができることが試されるというか。

なるほど。

その上で、今は教科となった『探究』をやっているわけですけど、箕面高校の時のように「英語の授業の中で探究的な取り組みをやった方が効率がいいのかも」と感じることはありますね。もちろんそれをやってしまうと、取り残されてしまう生徒は増えるとは思いますが。池谷先生はその辺りをどう考えていますか?

そこは難しいところやね。英語が好きな生徒は、英語に前向きに取り組んでいるっていう時点で、探究も含めてさまざまなことに前向きに取り組めるってこと。だからそういう生徒に対しては、英語でやることで推進力とか成長力が強まるとは思うけどね。

なるほど。僕の感覚としては、日本語でやると英語の時と比べて、3段階くらい前からやらないといけない、みたいな。それが故にけっこう歯痒い思いをすることもあるんですよね。

それもあるかもしれないね。

ただ、追手門では箕面高校の時と違って、すべての生徒に対してできるので、その分、難しいけれど、意義や共感も大きいと思っています。

おそらく「探究」っていうものをどのレベルで実践させるかで話は変わってくるんじゃないかな。単に調べ物をするだけっていう考え方なのか、もしくは例えばGoogleやFacebookみたいなサービスをうみ出すことで「次の世代をつくる」レベルで考えるのか。僕は理想でいくと、後者こそが探究だと思っています。つまり物事の真理を追求するところまでやらなければ、いわゆる“調べ学習”をやらせている方がマシじゃないかなと。

ただ現実的には1週間に2コマしかないので、なかなか真理を追求するっていうところまではいけなくて……。

そうだと思います。だから『探究』という教科があるのもいいんですが、その他の教科も含めて、すべての授業が探究であることが大切ですよね。

それは同感です。

もっと言うと、授業だけではなくて、人生そのものが探究である方が望ましい。そうじゃないと、最初に言っていた“檻の中の犬”と同じです。日本人の大半は、檻の中にいること自体に気づいていないし、むしろ「檻の中にいた方が安心」と考えている人も多いんですよね。でもそれって一歩間違えればノアの方舟と一緒で、洪水が来たらみんなで流されてしまう。そんな人材を育てているのが今の日本の教育です。僕は少なくとも「いつか洪水は来るんだ」ってことだけには気づいてもらいたいと思って、生徒たちと向き合っていますよ。

すべての授業が探究であるべきだし、
授業だけでなはなくて、人生そのものが
探究であるほうが望ましい。

Theme3

いつかまた道が重なるその時まで。
変わらず、同じ方向にむかって。

ここは余談なんですが、ずっと日本の学校に通っていた僕と違って、海外で学生生活を送ったことで、英語も話せるおふたりからして、日本の英語教育はどう映っていますか?

決して悪いものではないと思いますよ。ただフォーマットの古さは否めません。それこそインターネットが主流になる前で、「英語でメールを返すだけ」みたいな時代であれば、この英語教育で大丈夫なんですよね。

それはすごくよく分かります。

つまり「言語」っていうのは「思想」とセットなので、英語を学ぶためには、日本語とは違う考え方ができないといけません。それなのにその思想の部分を一緒に教えていないから、クリティカルな議論をしたり、発想の幅を広げたりすることを目的にするとなると、今の英語教育は適応していないと思います。

僕も基本的には同じ考えです。やっぱり英語を「言語」だと思っているうちはきついんですよね。文化や思想ごと目の前に来ている時代なので、それを無視して、言語だけを習得するのは難しいと思います。にもかかわらず、言語として教えるだけになってしまったら、それ以上のものになりえない。その結果、学校の英語の成績はいいし、本当は喋れるはずなのに、海外に行ったらずっと黙っている、みたいな人が増えてしまっているんですよね。

日本人の思想のまま、その上に言語としての英語を乗せているだけだから、相手の文化や考え方を含めて本当の意味で理解はできないんだろうね。

はい。いちばん大切なコミュニケーションの部分を外して教えてしまっていることが大きな原因だと思います。『コミュニケーション英語』と言っていても、教師の心のどこかに「受験のための英語を教えないといけない」というジレンマがあるんじゃないかな。

確かに日本の英語教育を受けて、教室の中では英語はペラペラなのに、海外に行ったら急に喋れなくなるみたいな例はたくさんありますよね。英語自体は話せるけど、思考がストップしてしまうっていう。僕はもう英語の教師ではなくなりましたが、本当はその部分までを学校の英語の授業で担うべきってことですね。

学校の壁を越えて、3人がまた世の中を驚かす日がくるのでしょうか。

では最後に日野田先生も、箕面高校での4年間を経て、今感じることなどはありますか?

教育そのものの問題ももちろんながら、もっといろいろなことが見えてきました。例えば今日みなさんが来てくれたこの学校も、結構ボロボロでしょ?(笑)。ここは築60年。ちなみに箕面高校も同じく築 60年でした。

両方とも高度経済成長期につくられた建物なんですね。

そう。だからもう建て替えないといけないのに、その費用がありません。やはり学校ってイニシャルコストがかかりすぎるんですよね。ひとつの学校をつくるのに、だいたい30億くらいかかるんですけど、大阪だけでも、55%以上の高校が、耐久年数の目安である築50年を超えています。それはもちろん大阪だけでなく日本全体に言えること。約4万校あるとされる小学校、中学校、高校の中の約2万校以上が建て替えを必要としていることを日本の国民は知らされていません。それって金額にすると60兆円も必要になる計算になるんですよ。

なるほど。実際に働く中でそういった問題に気づいたってことですね。

そうなんです。やはり今はバランスシート上、黒字にならない学校が増えていて、人口が増えている時代であれば、物価も一緒に上がっていくので、学校が続くために必要なお金も払えるんですけど、今はそうではないから、これからたくさんの学校がつぶれてしまいます。

それって日本だけが抱えている課題なんですか?

いや、日本だけではありません。だから世界中で「サスティナブルな学校をつくろう」っていう動きが出ています。そもそも学校って地域と分離された存在になってしまっているという問題があるんですよね。それを地域に開放することで稼働率を上げれば、少しずつ解決へと進むはずです。東京や大阪はまだいいですけど、地方に行ってしまうと、社会全体が崩壊へと進んでいますからね。今のままでは学校の存続が難しくなってしまいます。

一般人では考えられないスケールの構想を抱く日野田氏の今後の活躍に注目です。

そんな中で私は、学校はもちろんながら、インキュベーション施設や医療施設を含めてパッケージオンされた街づくりをやりたいなと思って、さまざまな分野の人たちと、多岐にわたる議論を進めています。その結果として、SDGsの実現や、ケインズ経済学をもとにした20世紀型の街づくりを乗り越えて、21世紀に相応しい「学校を中心とした街づくり」まで踏み込みたい。そう願っています。その時には池谷先生と髙木先生のお二人にも、またお手伝いしていただきたいなと感じていますよ(笑)

相変わらず考えていることのスケールがでかい(笑)

うん、ほんとにずっと変わらない。

やっぱりやるからには突き抜けないといけません。馬渕教室でも奈良学園でも、目の前の生徒をインスパイアすることは得意で、それに関しては誰にも負けない自信がありました。そういうところで「先生、すごいですね」って言われながら、長い人生を過ごすこともできたんですが、僕はもうそうではない人生を選んでしまった。そうなった以上は、やるところまでやらないと。とは言え、基本的に目指すところは、おふたりと変わらないですよ。

大きな方向は一緒ですよね。レベル感は違いすぎますけど(笑)

日野田先生は昔からめちゃめちゃスケールのでかいことを言うから、最初は「そんなアホな」って思っていました。だけど「来月、こんなことがあるから」って言うと、それが全部的中していくんですよ。マジでそれにはビビりましたね。だから途中から「そんなアホな」が「怖い」に変わっていって、さらに「すごい」になって、今日は「相変わらずだな」になりました(笑)。でも当時から口にしていた構想を着実に歩んでいってますね。

ほんまにそれ(笑)。でも普通の日本の家庭に生まれて、普通に日本の学校で育ち、普通に教職免許をとって、普通の教師となった僕が、あの時に箕面高校でたまたま稀有な経歴を持つおふたりと同じ時間を過ごすことができたのは、本当によかったと思います。

それはね、池谷先生が“もっている”からですよ。

あの4年間がなければ、今はどうなっていたか分からないですね……。

でもまた一緒に何かできることがあれば本当に嬉しいです。

どうせいつか道は重なりますよ。僕はそう思っている。

そうですね。これからも集まりたいときは集まって、そうじゃない時は距離を置きましょう。それがいちばんいい(笑)

ずっと一緒だと、ふたりともクセが強いから、飽きる時が来ますもんね。

いや、僕は普通の人間ですよ。

いやいや、僕がいちばん普通。

そう言っているうちは、ふたりとも普通じゃないから(笑)

21世紀に相応しい
「学校を中心とした街づくり」
まで踏み込みたい。

(おわり)

INTERVIEWER'S VOICE

池谷陽平・髙木草太

本当にあっという間の時間でした。それぞれの道を歩んでいる今だからこそ、もう一度違った形でコラボすることが楽しみです! 出会いこそ学びのチャンス!! 自分がそうだったからこそ、これからの生徒たちにも是非いろいろな出会いを経験してほしいと願っています。次に集まる時はどんな話ができるのか! そんなことも期待させる内容てんこ盛りの記事です。是非楽しんでお読みいただければ!(髙木)

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