探究科 座談会その4-前編-

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SPECIAL

2022.01.27UP

オリジナリティ? 仮面!? 自分だけが持つ価値をどう見つける??

MEMBER

池谷陽平探究ドライバー

髙木草太探究デザイナー

眞鍋綾探究アーティスト

上月龍太郎探究クリエイター

佐藤佑平探究ストラテジスト

牛込紘太探究キュレーター

教師たちがやりたいことを通して
見つける探究教育のあるべきカタチ。

前例も答えもない世界で、独自のプログラムを構築し、生徒たちの反応や効果を検証しながら、また次の授業へとつなげていく。そんな工程を延々と続けているのが探究科の6人のメンバーたちです。今日も「やりたいこと」をテーマにして、来たる2022年度に向けて、ディスカッションが進んでいきます。

収録日:2021年11月18日

Theme1

『オリジナリティ』は
限られた人だけのもの?


池谷

探究科のメンバーが集まって行う座談会も4回目となりました。ちょうど来年度のプログラムを考える時期でもあるので、今回のテーマはずばり「探究科の先生が、本当にやりたいこと」。具体的な活動や考え方、方法論などなんでも構いません。出てきた意見は、実際に来年度以降の授業内容に組み込んでいきたいと思っています。では今日は髙木先生から!


髙木

はい。僕が考えてきたキーワードは『オリジナリティ』です。


池谷

ほう。割と大きな概念やけど、なんでそれにたどり着いたの?


髙木

歴史的にみても、日本っていわゆる“盗用“が多い文化圏のように感じます。例えばウィスキーのような飲食物や、車とか家電といった工業製品においても、他人のモノの一部をつかったり、勝手にアレンジをしたりすることが多かったんですよね。論文などの学術的なものもそうかもしれません。それが理由なのか「オリジナルである」ということがものすごくレアなものとして捉えられてしまっている気がします。


池谷

なるほど。確かにそうかもしれないね。


髙木

オリジナルのものをうみ出せることが貴重な才能のように扱われていますが、実際はそんなことはなくて。なぜなら自分のオリジナリティって、絶対に誰だって生み出せるものだから。

学生時代に傾倒したブレイクダンスが「オリジナリティ」を考えるきっかけとなったと話す探究デザイナー、髙木先生。


池谷

そもそも自分のオリジナリティについて考えたことのある人が少ないのかもね。髙木先生はどういう経験からそれを実感したの?


髙木

僕は学生の頃にブレイクダンスをやっていたので、そこで体験した文化から学んだのかもしれません。ブレイクダンスでは誰も見たことのない動きとか、その人にしかできない技がめちゃくちゃ高く評価されます。つまりオリジナリティがもっとも尊重されるわけです。その対極にあるのが「バイト」と呼ばれるもので、他人のダンスを丸パクリするもの。これは低評価どころかバッシングの対象なんです。そして「オリジナル」と「バイト」の間にあるものを「フリップ」と呼びます。これは真似した技に自分なりの解釈をプラスして、オリジナルにしていくというものですね。


上月

ベースは同じだとしても、自分なりの要素が加えられていたら、それはもうオリジナルなんですね。


髙木

そうそう。あとダンスって、失敗からうまれるオリジナリティも多いんです。というのも「ミスをした」ということは、本来想定していなかった動きから立て直す必要があるということ。そして失敗の仕方って人によってさまざまだから、そこからの動きに勝手に独自性が出てくるんですよね。


眞鍋

失敗したことから、新たなアイデアをうみ出すっていう考え方のは面白いですね。「ミスしたけど、そこから何ができる?」みたいな。


髙木

うん。そういう時にこそ、他の人のマネではない自分らしい動きや考え方にたどり着くんだよね。つまり授業の中で、ひとつでもオリジナルを自覚することができれば、生徒たちの「自分はどこにでもいる存在」という意識が薄れていって、「自分にしかできないことがある」という気持ちが芽生えるんじゃないかな。


池谷

フリップからうまれるオリジナルもあれば、失敗からたどり着くオリジナルもあるってことか。それを突き詰めると「オリジナリティがない人」なんていないってことになるね。

「失敗からオリジナリティが生まれる」という髙木先生の提言に興味を抱くのは、探究アーティスト、眞鍋先生。


上月

今の話を聞いて、僕はフリップが多い人生だなって思いました。いろいろ情報を得て、フリップにフリップを重ねながら、真似から離れていくっていう。もはや“フリッパー”と言ってもいいですね。


池谷

フリップによって上月先生の独自性がうまれたってことやね。もともとは外から仕入れた情報だけど、自分独自のものになっていくというか。


上月

まさにそんな感じですね。自分なりの解釈をして、またそれを自分なりのタイミングで発信することで、自然と独自性を帯びるんだと思います。


池谷

それって数学の授業でも言えることなの? もともとは真似から入って、自分なりの教え方になっていくというか。


上月

いや、数学においてはあまりイメージできないかな。同じ数学科の佐藤先生はどう? 


佐藤

僕は数学においてはフリッパーですね。論文の話が出ましたけど、たしかに研究者たちのほとんどがフリップしています。だってゼロからイチをうみ出せるのは、選ばれたごくわずかの天才だけですよね。


池谷

うん。たしかに。


佐藤

だから数学の世界では、多くの人がフリップして出来上がった成果に対してちゃんと誇りを持っていると思いますよ。自分なりの要素を足すことで「あなたのオリジナルです」と認められるのは、ブレイクダンスと似ているかもしれません。


上月

うん。わかるわ~。 


佐藤

教科を問わず、他の先生の授業を視察している時点で、少なからずフリップの要素はあると思います。アイデアを真似たり、方法論そのものをたくさん引っ張ってきたりした上で、そこから何を選ぶか、どう解釈するかという点で、自分の思考を通しているので、「自分のオリジナルの授業」という感覚はありますね。

オリジナルを自覚できれば
「どこにでもいる存在」という
意識が薄れていく。

Theme2

オリジナルの授業には
名前をつける作戦、決行!?


上月

牛込先生は、「オリジナル」「フリップ」「バイト」の中だとどれに当たると思いますか?


牛込

正直に言うと僕は「バイト」かな。


上月

完全に真似をしているってことですか?


牛込

そうだね。僕は今年度から追手門に赴任してきたし、探究以外の授業を持っていないから、特にそう思うのかもしれない。昨年度までに出来上がったプログラムを完璧に再現してみることからスタートしたから。


池谷

確かにそうなりますよね。


牛込

でも真似をする中で、自分には合わないと感じることが出てくるので、その時にはじめて「フリップ」して、自分なりのやり方を加えていきます。やっぱりどれだけ忠実に他人の授業を再現したところで、自分の言葉になっていないと、生徒にしっかりと伝えることができないから。つまり流れとしては、まず「バイト」して「変えたい!」っていう衝動にかられ「自分ならどうするか」という考えを巡らせながら「フリップ」して、最終的に「オリジナル」に到達する感じです。


池谷

つまりスタートは「フリップ」や「バイト」だとしても、最終的にオリジナルの授業を目指しているってことやね。「オリジナルでありたい」って思いは誰にでもあるのかな。


牛込

う〜ん、っていうよりは、教師である以上、自然とオリジナルを追求せざるを得ないのかもしれません。なぜなら授業内容は同じでも、生徒によって対応を変える必要があるから。丁寧な説明が必要な場合もあれば、ざっくりと問いだけを投げかけるだけのこともある。目の前にいる生徒一人ひとりにマッチした方法を探して、それを実践した結果、自ずと各先生のオリジナルの授業になっているような気がします。

大学院まで数学の道を歩んだ結果、教員となったのは探究ストラテジストの佐藤先生。


眞鍋

今の一連の話を聞きながら生まれた疑問があります。それはどの段階で「フリッパーではない」と言い切れるのかなってこと。上月先生も佐藤先生も牛込先生も、最終的にはオリジナルになっているのに、自分自身は「フリッパー」であり「バイター」だと思っているわけですよね?「オリジネーター」と言えない理由というか、境界線みたいなものがあるのかなって。


髙木

確かにどんな分野であっても「あの人がオリジナルだ」とされるのは、ある程度の年月が経ってから、周りの人が言うことが多いからね。


上月

分かった! 自分がつくり出した授業内容には、自分の名前をつけたらいいんじゃないですか?


池谷

はいはい。体操競技だと、編み出した人の名前が、技の名前になるからね。


上月

そうです。つまり僕が考えた授業は『リュウタロウ・ワン』みたいな(笑)


眞鍋

それ、すごくいい! 私も『アヤ・ワン』つくりたい!!(笑)


髙木

なるほど! じゃあ名前のついている授業をフリップしたら、また新しい名前をつけていくといいよね。『リュウタロウ・ひねり』みたいな(笑)


池谷

確かにいいね。授業のプログラムって、複数の先生が関わりながら構築していくことが多いけど、それでも「自分の授業だ」と思えるかどうかってすごく大事なことやから。授業に名前をつけるのは、実際にやってみようかな。いろいろな先生のオリジナルの授業を一覧にして、学年や時期、生徒の個性を考慮しながら組み合わせていければ、ベストなコンテンツがうまれそうな気がするわ。

探究ドライバーの池谷先生が提案するのは、学年を超えて行う壮大なスケールのプロジェクトです。


池谷

『オリジナリティ』をキーワードにした授業プログラムとして、生徒が共同で作品をつくるというのはどうだろう?


佐藤

ひとつの作品を数人でつくるというものはなかったかもしれませんね。複数人でひとつのプロジェクトを進めることはありますけど、それは作品づくりではなかったから。


池谷

そうそう。チームで活動することで、「問題をチームで解決する」とか「他者に目を向ける」といったことは体験できるけど、数人でひとつの作品をつくるっていうのもいいんじゃないかな。


眞鍋

「課題を解決する」という目的ありきではなく、ただ作品づくりをさせるってことですね。


池谷

うん。例えば3人でチームになったとして、出来上がった作品を「私たちの作品」と考えるのか「私の作品」と考えるのかって、けっこう重要な気がする。僕としてはそのどちらも感じてほしいと思っていて。なぜなら自分の考えた要素が作品に反映されているのを誇らしく感じて「私の」と捉えるのもいいことやし、他のメンバーのオリジナリティを認めていれば「私たち」にもなる。他人のオリジナルを尊重して、それを楽しむっていう体験を共同作品では得られるんじゃないかな。そういう倫理観ってチームで課題解決をするときにも、絶対に必要になってくると思うからさ。

複数の先生が関わって
構築したプログラムでも
「自分の授業」と思えるのが大事。

Theme3

理想の自分って、
どんな顔?


池谷

牛込先生は2年目を迎える来期に、何か考えていることはありますか?


牛込

僕は『自画像』を活動に取り入れたいですね。すでに近いことはやっているけど。


池谷

自分の顔の絵を描くってことですね。そこにはどんな狙いがありますか?


牛込

大きな目的としては「いまの自分」と「理想の自分」の両方を認識してもらうことですね。このプログラムには工程が2段階あると思っていて、まずはしっかりと自分の顔を観察して描くフェーズ。そして次に、その絵を理想の自分になるようにデコレーションしていくフェーズですね。2段階目は何かを切り貼りしてもいいし、絵の具で色をつけてもいい。たとえば本当は黒髪だけど、オレンジ色にしたっていいんです。


眞鍋

なるほど。現実と理想のギャップに意識が向くってことですね。


牛込

そうですね。そのギャップをどんな風に自覚し、さらにどんな手法で表現するのかが大事だと思っています。これまでもコラージュによる表現があったので、その対象を自分にするイメージですね。そもそも人って、外見や表情に感情が映し出されるものだから。理想の自分の顔がもしかしたら怒り顔かもしれないし、悲しい顔かもしれません。この取り組みを通して、理想の自分を探りながら表現してほしいと思って。

“理想の自分”に意識を向けるために『自画像』プログラムを提案する探究キュレーター、牛込先生。


池谷

たしかに自分自身の感情にフォーカスした授業はこれまでやってこなかったかもしれない。喜怒哀楽の中で、どれが自分を動かしているエネルギーになっているのかをつかめるなら、すごくいいな。


眞鍋

感情に焦点を当てなかったのは、やっぱりちょっとリスクもあるからですよね。生徒たちが勇気を持って出してくれた繊細な部分が、傷つかないという保証ができないから。


牛込

そうだね。実際にやるとなると、完全に安心・安全な場をつくり出さないといけません。そういう意味では今年度の中学2年生が取り組んでいた『仮面プロジェクト』は、自分の素の部分をしっかりとアウトプットできているんじゃないかな。


池谷

そうですね。あれは今の自分の素直な思いを表現しながら新しい顔をつくるという取り組みでした。そして「その仮面を被ったら素の自分であれるのか」を検証するという実験的なコンテンツですよね。全員が仮面を被ったときに、普段とは違う何かを感じるのかっていう。このプロジェクトは、将来的に学年を超えて学校全体で一斉にやりたいと思っています。


髙木

それは面白い。つまり仮面を被っている間だけカップルになったり友達になったりするわけでしょ? 理想の自分になった者同士でものすごい化学反応が起きるんじゃないかな。仮面をとったら、元通りになるけど(笑)


眞鍋

素顔に戻ると、何年生の誰なのかすら、まったく分からないわけですからね。制服も揃えて仮面をつけて行動する日があったらいいな。

探究クリエイターの上月先生は、仮面プロジェクトの作品の出来に感動を覚えたと語ります。


上月

しかもあのプロジェクトでうまれた作品はどれもクオリティが高くて、僕、ちょっと感動しちゃったんですよ。


池谷

うんうん。みんなすごく熱中してつくっていて、どの生徒もいろいろな思いが詰まっていたんじゃないかな。


上月

そうなんです。特に手前に飾ってあったやつ。あれをつくった生徒は本当にすごいですよ。名前がないから誰の作品かは分からないけど。


池谷

あ、あれは眞鍋先生やね。


上月

おい! なんで先生のが一番目立ってんねん!!(笑)


眞鍋

エヘヘへ……(笑)

理想と現実のギャップを
どんな風に自覚し、どんな手法で
表現するのかが大事。

後編はコチラ

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