探究科 座談会その2-前編-

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SPECIAL

2021.05.10UP

『リフレクション』には、探究科がめざすすべてが集約されている!

MEMBER

池谷陽平探究科

髙木草太探究科・英語科

眞鍋綾探究科・英語科

上月龍太郎探究科・数学科

東野友洋探究科・社会科(退職済み)

毎授業、振り返りを行なった1年間。
その意味は? 生徒たちへの効果は??

追手門学院中・高等学校(以下:追手門)の探究で特に大事にしているのは、授業の最後に必ず行う『リフレクション』、つまり生徒たちによる振り返りです。そこで今回は2020年度の1年間で蓄積された膨大な数のリフレクションを見ながら、それらが生徒にもたらしたもの、また授業を担当する教師にもたらしたもの、さらに追手門の探究におけるリフレクションのあり方や意味に関して、前回と同じメンバー、同じ雰囲気でカジュアルに語って行きます。5人の先生たちが印象に残ったリフレクションもピックアップして紹介していくので、それもお楽しみに!

収録日:2021年3月4日

Theme1

『リフレクション』は覚えたかどうかの
『チェックテスト』にあらず!


池谷

2回目となる探究科の教師による座談会。今日も前回と同じメンバーでやっていきましょう! 今回は『リフレクション』について深く掘り下げていきます。探究の授業でもっとも大切なことのひとつですね。とても重要な話題なので、いくつかの切り口に分けて話をしていきたいと思います。まずは「なぜ探究の授業ではリフレクションを必須にしているのか」というところ。みなさんは探究だけでなく、数学や英語、日本史を教えているわけですが、そういった一般の教科でもリフレクションは取り入れていますか?


上月

数学では授業のサイクル自体がリフレクションになっているイメージですね。


東野

日本史の授業も「リフレクション」というものを、どのように捉えるかが難しくて。探究とはまた違うので。


眞鍋

私の英語では、授業の内容によります。知識を得ることを目的とした授業の日は、振り返る必要はないと思っているので。


髙木

僕の英語でも眞鍋先生と同じです。やはり探究以外の教科でのリフレクションは難しい点がありますよね。その日の授業を振り返ると言っても「この単語が分からなかった」とか「次はもっと予習をします」とか、そんなのが出てくるだけならやらなくていいから。


池谷

なるほどね。上月先生はどう?


上月

数学で大事なのは「解き方が理解できたか、そうではないか」ということ。前者ならそれで問題はないし、後者ならやり直すまでです。髙木先生が言ったように「今日は◯◯の問題が解けなかった」みたいなリフレクションをするくらいなら、その時間を解けなかった問題に使わせてあげたいと思っています。


池谷

探究以外の教科では、だいたいその壁にぶち当たるよね。じゃあ東野先生の日本史は?


東野

僕も同じです。例えばテストに対するリフレクションをしたって、生徒たちは「勉強が足りませんでした」、「暗記が苦手だから」、「もっと前から対策をしておくべきだった」みたいなことを書くだけです。それだと意味があるとは思えないので。

2回目の今回も、司会進行役は探究科主任の池谷先生です。


池谷

では毎回ではないけどやっている眞鍋先生はどういう風に捉えている?


眞鍋

やらない時の理由は、いま挙がったものと変わりません。私が英語の授業でリフレクションを行うのは、たとえば班に別れて何かしらのテーマでディスカッションをするような時。議論の中で意見が対立することもあるので、そこで自分が周りに対してどんな働きかけをしたのかとか、自分の感情はどうだったかといったことを残してもらうようにしています。

授業の内容によっては英語でもリフレクションをすると話す眞鍋先生。


池谷

なるほど。髙木先生も同じ感じ?


髙木

僕の場合は大きく分けて2種類のリフレクションがあります。ひとつは授業の中でアウトプットをした日にやるもの。自分がどれだけできたか、どれだけの準備をしたのかなど、何かしら自覚できることがあるはずですからね。もうひとつは逆にインプットをした授業の時。こっちは少し注意が必要で、生徒たちには「インプットを体験として捉えるように」と説明をしています。それはつまり取得した情報を単なる知識として入れるのではなく、自分の体験に置き換えるということ。これをやるのは特にリーディングの授業が多いので、「教科書に書かれている題材に対して、自分はどう思うか」という視点で振り返ってもらいます。


池谷

そうしないと「聞き取れませんでした」のようなリフレクションになってしまうからかな?


髙木

そうなんです。体験に変換することで「聞き取れた / 聞き取れなかった」「理解できた / できなかった」といったレベルを超えられます。入ってきた情報や他の人の意見をどう解釈をしたかというところまでもっていかないと意味がないので。

知識から体験へ。髙木先生はその変換を重要視します。


池谷

つまり全員の話に共通するのは、授業で得た知識を振り返るだけのリフレクションは、やっても仕方ないってことかな?


眞鍋

そうですね。それだと単なる『チェックテスト』になると思います。


髙木

そうそう。リフレクションをチェックテストとして捉えられてしまうことが多いけど、それは本当にもったいない。

授業で得た知識を振り返る
だけのリフレクションは、
やっても仕方ない。

Theme2

外部から設定された“問い”ではなく
自身の体験・経験をベースに。


池谷

では次はリフレクションそのものについて話していこう。探究ではこの1年間、リフレクションを続けてきました。改めてその意味を整理していきたいと思います。それによって生徒が抱く「何のためにリフレクションするんですか?」に対する答えになればいいよね。


髙木

そもそも池谷先生が探究にリフレクションを取り入れようと思ったきっかけや狙いはどういったものだったんですか?


池谷

最初は完全に興味本位。というのも探究では自分の考え方をさまざまな方法で表現することで、自分自身を知り、いろいろな発見へとつなげていくやん? そういった体験や経験、そこで抱いた感情を理解するための手段としてリフレクションを取り入れたら、どのように学びが進むのかなっていう興味があったから。参考にしたのはコルブの『経験学習モデル』というもの。経験から省察的観察をして、自分の中で概念化・抽象化し、行動に活かすってサイクルをつくるものと提唱されていてい、そこでもリフレクションが重要なキーワードになってる。


東野

なるほど。ちなみに僕は自分が担任をしているクラスでも、ほぼ毎日リフレクションをさせています。そのときにふたつのことを大事に考えてもらっていて。ひとつ目はパターンを掴むため。そしてもうひとつは量に意味があるということです。


上月

ひとつ目は分かるなぁ。何かで成功した時に、その法則を理解しておくことは絶対に大事よね。


東野

まさにそれです。例えばテストで良い点が取れたときに「なぜそれが可能になったのか」を振り返ってその理由を蓄積させておくことが大事だと思っています。そこでは「〇〇を覚えたから」とか「こういう勉強をしたから」といったような勉強の方法論やアプローチではなくて、どんな状態でテスト前の期間を過ごしたか、また自分の周りではどんなことが起きていたのかといったことを書いてもらうようにしています。自分が成功できた背景にはどういった要素が影響していたのかを知ることでパターンを掴むというものですね。

東野先生はふたつの観点を大事にしながらリフレクションを行っています。


池谷

ふたつ目の「量に意味がある」っていうのは、質より量が大事ってこと?


東野

はい。村上春樹の言葉で「物事には一定の嵩(かさ)が意味を持つこともある」というのがあって、それが腑に落ちたんです。そこから「量があることで、はじめて意味が生まれることもある」と生徒には伝えています。この1年間で生徒たちは膨大なリフレクションを残してきました。それを見れば、書いてある内容にかかわらず、充実感や自信につながるんじゃないかな。


池谷

そのふたつは言葉を変えてひとつのことを伝えているだけな気がするな。探究の授業では、毎回かならずリフレクションをしている。それは東野先生の言う「量」につながるよね。そしてその膨大なアーカイブの中から自分なりに共通点を見つけ出しながら複数のものを結びつけていくことで、抽象的な概念が獲得できる。それが成功パターンにつながるわけで。つまり課題に対する自分なりの答えになるのかなって。


東野

確かにそうですね。僕が大事にしてきたふたつががつながっているのであれば、余計に納得感があります。


池谷

生徒たちがやっているリフレクションにはオリジナルの要素もあります。いま世間的に流行している探究学習の方法論っていうのは、まず問いを設定して、それを解決へと導くっていうものなんやけど、僕はその流れにはあまり納得がいっていなくて。というのも、こちらから掲示する「問い」が重要視された結果、そこから得られる答えは、生徒たちの内側から生まれるものではなくなってしまうから。だから追手門の探究では、問いを与えすぎないことを大切にしているし、振り返りもあくまで自身の体験や経験を通して感じたものをベースにさせているよね。


眞鍋

確かにそうですね。リフレクションをする時に前提や設定を与えることはほとんどありません。


上月

だからこそ僕らの意図しないようなリフレクションもめちゃくちゃ多いよね。そういう授業ができた日は、成功だと思っています。

リフレクションの内容でその日の授業の成功度を測っていると話す上月先生。


髙木

うんうん。それが楽しいし、こっちのテンションも上がります。それに「書き言葉」だからこそ出てくる内容もあるよね?


眞鍋

そのせいかあの時間は、一人ひとりがめちゃくちゃ集中していますよね。それまでにぎやかだったのに、急にシーンってなる(笑)


池谷

そうそう。別に「この時間は静かに!」って言っているわけではないのにね。生徒たちが自ずとリフレクションに意味を見出して、自走し始めたような感覚があって、素直に嬉しいわ。興味本位で始めてみたけど、結果的には体験や経験を通した発見や思考を促すことを狙いとしている追手門の探究とすごくマッチしたと思っているよ。だから僕たちが考えるリフレクションを定義するならば『体験や経験を通して感じたことを、自分なりに意味づけして、量を貯めて、質を高める。その先に自ら問いを立てられる思考回路をもつ』って感じじゃないかな。つまり追手門の探究が目指すものすべてが、リフレクションに集約されていると言っても過言ではないってことで!

体験や経験を通した
発見や思考を促す追手門の
探究とすごくマッチした。

Theme3

言語化するから気づく自分。
それが自己肯定感へとつながる。


池谷

ではここからは、2020年度に出てきた膨大な数のリフレクションの中から、それぞれの先生がお気に入りのものを紹介していきます。みなさん2つずつ選んでますよね?


眞鍋

はい。ではまず私から。取り上げるのはこちらです。

(自分についてより深く考えようとしましたか。それはなぜですか)『した。隠れた才能などが見つかるかもしれないから。』


池谷

質問に答えるパターンのリフレクションやね。これをピックアップした理由は?


眞鍋

これは私の宝物となっているものです。書いてくれたのは10月頃。それまでこの生徒は「自分に取り柄はない」と言って、探究の授業にもあまり積極的ではありませんでした。でもこれを読んだときに「取り柄がない」とは思っているけど、けっして諦めているわけじゃないということに気づかされて。


上月

「見つかるかも」って期待が込められているのも、嬉しいポイントやね。


眞鍋

そうなんです。「自分には隠れた才能があるかもしれない!」ってワクワクしている生徒を前にして、絶対に適当な授業はできないなって改めて思いました。心にぐさっと刺さりましたね。


池谷

言葉にしていないままだったら、本人も意識することのない思いだったかもしれないね。ちなみにこの「自分についてより深く考えようとしましたか。それはなぜですか」っていう質問に対して「しなかった」っていう生徒もいたよね?


眞鍋

そうですね。「自分を見つめすぎるのが怖い」なんて理由も見られました。でもそれだって自分についてより深く考えた結果だし、どちらの場合も次に活きてくると思います。そしてもうひとつがこちらです。

『今まで無関心だった仮面に愛着を持ち始めた。物としては変わらないけど……申し訳ない気持ちが募っています。形だけ育ててしまった。』


眞鍋

これは書かれている通り、探究の授業で『仮面』をつくったときのものです。ちなみにこの生徒は、これを書く前の週まで「やる気が出ません」などと書いてくれていました。


池谷

そこからどうしてこうなったのかな。もはや仮面に魂が宿っているようにすら感じるけど……。


眞鍋

このプロジェクトの間、ずっと生徒たちには「仮面はあなたの分身だから」って繰り返し伝えていました。その上でここからは私の想像ですけど、終盤になってやっと仮面を自分の分身として認めてあげたのかもしれませんね。つまり自分のことをないがしろにしてしまっていた自分自身に、このタイミングで気がつけたんじゃないかなと。


池谷

なるほど。仮面の制作って長期間に渡ったやん? 時間をかけて一生懸命つくったものに対して、何かを境に思いが乗るっていう経験ができたのはすごくよかったと思う。その変化に気づいたときに、それまで適当にやってしまったことを申し訳なく思えたんじゃないかな?


東野

そもそもプロセス全体を振り返ることができる中学生ってほとんどいません。でもこの生徒は、仮面をつくり始めたときからに思いを巡らせて、途中で自分が変化したことを認識できているわけで。授業があったその1日だけの話じゃないのはすごい。


上月

「育てる」ってワードが出るのは、過程を振り返ってるからこそやもんな。


池谷

きっとこの生徒が次に何かをつくるときは、仮面のときとは違ったスタートを切れるよ。一方で考えさせられるのは、今までの教育はこういった生徒たちの可能性にどれだけ蓋をしてきたのかってこと。


上月

まさに我々こそが「形だけ育ててしまった」ってことですよね。


眞鍋

本当にそうなんですよ。自分が教員をしていて、中学生からこの言葉が出てきたらドキってしませんか?


髙木

動揺するよね。考えさせられる。


上月

もしかしたらリフレクションを通じて、僕らに訴えかけているのかもしれませんね。「形だけ育ててませんか?」って。


池谷

さすがに本人はそこまで狙ってないと思うけど、今の教育現場はまさにそういう状況になってるからね……。眞鍋先生も良いピックアップだったと思います。ありがとう! じゃあ、次は上月先生、お願いします。


上月

まず僕の中での揺るぎない1位はこちらです!

『自分には強みが一つもないと思っていたけど、友達が言ってくれた力を強みとして「認めて」伸ばせていけたら成長。あと、シンプルにちょっと自信がつきました。』


上月

この言葉に僕が自信をもらったし、教員人生のターニングポイントにすらなるようなリフレクションでした。それと同時に「探究っていいな」って実感した瞬間でもあります。


池谷

これは「人に自分の強みを言ってもらう」という授業に対するリフレクションやったよね?


上月

そうです。その上で他者が言ってくれた強みが本当に自分の中にあるのかを、自分なりに引き出すという活動をしました。自他ともに認める強みを探すということですね。


池谷

上月先生にとって何がそんなにインパクトが強かったん?


上月

これまで6年間、数学も探究もいろいろと考えながら一生懸命にやってきました。その中で生徒たちが「自信がつきました」と言ってくれるような授業がどれだけあったのかなって考えさせられたんですよね。教師として生徒に教えられることはたくさんあると思うんですけど、最終的に目指すべきはこれなんじゃないかなって。生徒が自信を持つような授業ができたらこの上ない喜びだし、生徒がそう思ってくれるのであれば教師冥利につきますよね。


池谷

たしかに学校の授業を受けることで自信がつくって、実はすごく難しいことよね。我々探究科が目指す中で最上位にあるのも「自信」。もちろん他にもいろいろとあるけど、最終的には自己肯定感を高めてあげることを目的にやっているから。


上月

実はこの生徒は、僕が去年担任をしていました。たしかに自分に自信を持てていなさそうな感じはあったので、そういう子がちゃんと自分の強みを認めてくれたのが、めちゃくちゃ嬉しいんですよね。そしてもうひとつがこちら。これはその日の授業の様子も踏まえて選びました。

『この発表で自分とすごく向き合えた。次は友達、家族、たくさんの人と向き合っていきたい。』


上月

この日は「自分の好きなものを108個あげて、そこから浮かび上がってくる共通点を、何かしらの方法で表現する」という授業でした。ではなぜこれををピックアップしたのかと言うと、この日って発表だけしかしていないんですよね。


池谷

自分が発表をする、もしくは他者の発表を聴くだけってことね。


上月

はい。だから僕ら教師もほぼ発言をしていません。はじめのあいさつと授業の流れの説明くらいしか生徒と関わっていない。つまり生徒たちだけの活動の中でこのリフレクションが生まれたということです。この文章だけを読むと別に大したことは書かれていないように思うかもしれないんですけど、我々教師が導いていないにもかかわらず、前向きなリフレクションが書けているって考えたら、すごくないですか? 生徒同士の活動を通して、いい経験が出来たんだろうなって思ったし、これを続けていけばこの生徒の人生はどんどんと開けていくんだろうなって感じさせるリフレクションだったので選びました。


髙木

たしかに状況まで踏まえて読むとまた違った感覚があるね。


上月

そうなんですよ。あとこれを見て、改めて「リフレクションって大事だな」って実感しましたね。というのも友達の発表を聴いて「楽しいな」「なるほどな」と思ったとしても、リフレクションがなければ、それだけで終わってしまいます。そこから先ほどの自覚を得たのは、やはり自分を振り返って言語化したからだと思います。


池谷

そうやね。生徒同士で気づき合えたっていうのはめっちゃ大事なことやと思う。2020年度は個人で振り返ってもらうことが多かったけど、次はペアやグループでのリフレクションもやっていきたいね。ということで、上月先生もありがとう! じゃあ前編はここまで。後編は僕、髙木先生、東野先生のお気に入りを紹介していきましょうか。

最終的には自己肯定感を
高めてあげることを
目的にやっている。

後編(5月17日公開予定)へつづく。

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