株式会社アイタイス代表 雨森武志

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INTERVIEW

2022.09.30UP

【特別対談】現場から振り返る『探究』、そして『O-DRIVE』のこれまで。(後編)

PROFILE

雨森武志

株式会社アイタイス代表

ブランディング&クリエイティブカンパニー アイタイス 代表取締役。
ブランド・コンサルタント / クリエイティブ・ディレクター / コピーライター。
『O-DRIVE』の企画から制作、運用の指揮をとり、公開後、現在に至るまで
『PROJECT』コンテンツを除くすべての記事の取材・執筆を担当。
池谷先生とは学生時代のアルバイトで知り合って以降、20年来の友人。
互いを「イケピ」「タケシ君」と呼び合っている。

INTERVIEWER

池谷陽平

探究科 Driver

Theme1

共感、発見、そして自身へのフィードバック。
多くのエッセンスから、探究がうまれる。

(前編はこちら

引き続き、過去の対談記事を振り返っていこうか。特に印象に残っているものはある?

どれも印象深いですけどね。いまパッと思いつくのは、タクトピアの長井さんと、先生の学校の三原さん。あの2人は同じ趣旨のことを話していた部分がありました。

それって具体的には?

長井さんは確か「今の教育システムが社会とギャップあるものになっているのでは?」という議題から話がスタートしたと思います。つまり自身がIBMに勤めている頃に、リーマンショックが起こって、先輩たちもみんなアタフタしてしまったと。

学力的にはとても優秀とされている人たちが、社会の動きに対応できない様子を見たって話してたね。

そこから起業に至って、そういった状況にも対応できる力を身につけるためのプログラムをつくることになったんですよね。同じく三原さんも、学校という存在が社会とかけ離れたところに位置していることに、自分が学校で働く中で気づいたと話していたと思います。

そうやね。生徒たちのことを思って一生懸命に働く先生たちが、時に間違ったベクトルに走りがちっていう話をしていたのを覚えてるわ。

先生が一生懸命になればなるほど、いい結果につながらない状況があって、そういう先生を救いたいという思いがあると語っていましたよね。その辺はとても共感できます。

ちなみに世の中的には「学校の先生が社会を知らないことが問題」みたいに語られる風潮もあるけど、それについてはどう思うの?

確かによく聞こえてくる声です。でもそれは別に学校だけの問題ではないですよね。社会全体の問題であって、そのシステムを作ったのは先生ではないので。

タイソンこと池谷先生は、笑顔がとってもチャーミング。なかなか老けませんね。
ということで、後編も引き続き実際にこの原稿を書いている私とお付き合いください。

対談をきっかけに授業のコラボレーションまで進めることができたのが、エイブルトン株式会社のサルディ佐藤比奈子さんです。

あれはよかったね。ひとつの成功事例というか。人気のメディアにも取り上げられて、話題になっていたし。

そうなんです。あの記事の中でヒナコさんが主張していたことのひとつが、アメリカでの生活が長かった彼女が感じる日本という国の生きづらさでしたよね。社会的な問題に対して声を上げたとしても、なかなか変化に直結しないことに疲れる時もあると話していました。

うん。教育現場のみならず、日本という国全体が抱える根源的な問題に言及していたい記憶があるわ。

はい。もっと選択の自由や言論の自由、もちろん男女平等も含めて、フラットに評価されればいいねっていう話でしたね。それをまず学校からやりたいという思いから、コラボレーションに至りました。

音楽をつくるためのソフトや機材をエイブルトン社に提供してもらって、学生たちが自由に音で表現する授業をやったと。

そうなんです。とにかくツールの性能がすごくて(笑)。結果的にみんながものすごいアウトプットに辿り着いてました。

俺も見たよ。あれはほんとすごかった。「え? プロ向けのDTM講座なの!?」ってレベル(笑)

「これはロック」「これはヒップホップ」みたいなジャンル分けの感覚もない中学1年生にやってもらったのもよかったのかもしれません。そういう枠を取っ払った自由な創作ができました。

俺は若い頃から、いわゆる「ポップス」ではない、どちらかというとアンダーグランドな音楽をずっと聴いてきたけど、それでも中1の生徒たちがつくったトラックは、本当にクオリティが高いと思ったよ。

そうなんですよね。もちろんすべての生徒たちに『音楽』という表現方法がハマるわけではないということは分かっています。絵を描く方がいい子もいるし、小説を書く方がいい子もいる。ただあのソフトや機材からうまれるアウトプットの質を考慮すると、最初に音楽でやってみたのはすごくよかったと思っています。言わば技術も知識もなくても、いいものが出来上がるので、自己肯定感が上がるし、表現するということに抵抗がなくなっていくんじゃないかな。

楽曲発表の様子。この取り組みは多くのメディアにも取り上げられました。

他にも2年間でたくさんの人と対談をさせてもらいましたけど、“勇気をもらった”という点で選ぶなら、間違いなく東京インターナショナルスクールの理事長、坪谷ニュウエル郁子さんですね。一貫して「それぞれに優れた部分があって、それらはすべて素晴らしい」っていうことを話されていました。

そうそう。坪谷さんは、その軸がまったくブレなかった。

あと山本実由さんが話していた「アートっていう、化学的な説明や証明ができないものは、資本主義社会のなかで、貢献価値が見えにくい」っていう話も印象に残っています。逆にそれを見やすくしたのが、学校における『偏差値』ですよね。見えにくいものを、見えにくいままにおいておけるかどうか。それはこの先の教育にかかっていると思います。

往々にして、大人は数値化できないことが不安に感じてしまうんよね。だから“見えにくいまま”を嫌っちゃう。

はい。先生もそうなりがちだし、保護者の方々もそうです。「高いお金を払って私立に行かせているんだから……」とか「それに見合う費用対効果を……」みたいに考えられてしまう。もちろんそれが普通の感覚だということも分かるんですが、その価値観だけで考えられると、我々は厳しいなと。

なるほどね。まあでも、みゆさんの話は本当に難しかったけどね。原稿を書くの、最近ではあんまりないレベルで、苦労した気がする(笑)

あれは普通の人には理解できないですよね(笑)

見えにくいものを、
見えにくいままに
おいておけるか。

Theme2

対談をきっかけにうまれる
つながりや親交。そして次の展開へ。

もうひとつ、僕がこのメディアで最初に対談をしたラーンネットの炭谷さんとは、その後も関係性が続いています。

あ、そうなん? 具体的には??

あの後、「本当の探究クリエイターをつくる」という目的でラーンネットが行っている研修に半年ほど参加させてもらいました。研修の受講生である我々先生の授業を、炭谷さん本人がすべて見学してくれるんですよ。

へ〜、日本中の先生の授業を? すごい活動的!

そうなんです。さらにこの動きを広めていくために、2022年には2期生も募集することになって、1期生である僕はメンターとして関わらせてもらうことになりました。あの対談をきっかけに、関係性を深められたのは、とても大きいですね。

炭谷さんは経歴的にガチンコのビジネスのプロでもあるから、俺も羨ましいなぁ……。

あの人の理論は本当にすごくて。対談の中で『探究サイクル』の話も出ていましたが、コンセプトはどこにでもあるような言葉だけで設定されたすごくシンプルなものなんですけど、とても網羅的で、それでいてどんな具体的なケースにも当てはまるんですよね。

該当記事から転用。炭谷さんのメソッドが日本の探究教育に大きな影響を与えていきそうです。

このオードライブというメディアがあるから、「対談をさせてください」っていう声のかけ方ができるので、そこは本当に嬉しいですね。そんなきっかけがなかったら、コンタクトをとることもできないし、こっちが一方的に知っているだけで終わると思うので。

そうやね。でも今は逆にイケピのところに取材依頼がきたり、セミナーの講師として呼ばれたり、そういうことも増えたんよね?

そうなんです。ネットなどの記事で世の中に自分が出たのは、2019年はアイタイスのサイトでタケシ君と話した1本だけだったんですけど、オードライブを運用し始めた2020年は5つ、2021年は10本以上になりました。そのすべてがオードライブ経由ですね。知らない教育関係者から直接連絡が来ることもあるし、知っている人からつないでもらうこともありました。

どういう依頼が多いの?

まずは「探究の授業内容を教えてほしい」といったものですね。今年度から「総合的な探究の時間」が本格的に始まって、その授業内容に困っている学校が多いので、教育系のメディアから事例を紹介してほしいとお願いされることがあります。

なるほど。まずはメディア系ね。

そうです。新聞社のオンライン記事や、会員制メディアに取り上げてもらいました。あとはうちの探究に興味を持ってもらった教育系の会社が、理念や授業事例を丁寧に扱ってくれているようです。単純に依頼が増えるのは嬉しいですね。

メディア掲載の一例。こちらは『教育応援』のVol53より。このように多くの媒体で探究の取り組みが紹介されました。参照:教育応援(冊子)

それに加えて、他の学校から直接問い合わせを受けることもあるってこと?

それもありますね。探究って言うと「SDGs」とか「課題解決」を扱った授業が大多数を締めていると思います。だけど他の学校と同じようにそればかりをやるのはどうかな? と思っている全国の先生たちから「本当は何をやるべきなのか教えてほしい」っていう相談を受けることもありますね。

でもさ、授業プログラムの中身って、“企業秘密”というか、イケピたちが考えたオリジナルなものなわけで、それを他の学校の人に教えちゃっていいものなの?

それはぜんぜん大丈夫なんですけど、確かに教えられないものもあるっていうか「この通りやってくださいね」っていう、言わばどんな先生でも扱えるようなプログラムしか渡せないっていうのはあります。

なるほどね。

やはり本来なら、プログラムを提供する学校ごとにきちんと打ち合わせをして、根底にある考え方からすり合わせてやらないと効果が出ないものばかりです。ただそこまでやるのは難しいから、マニュアル通りにやれば誰でもできるプログラムだけを、オープンソースとして渡している感じですね。

対談をきっかけに、
関係性を深められたのは、
とても大きい。

Theme3

オリジナルプログラムはすべて“手弁当”。
だからどんな学校でもできるはず。

そもそも探究の授業プログラムって、無限に増えていってるの?

今のところは、増え続けています。ただ中学1年から高校2年までの5年間分のベースとなるものはすべて揃ったので、最近はちょっとペースは緩やかになってきましたね。ここからは1学年につき、年に2個は新しいプログラムをつくることを目標にしています。

1学年、5プログラムとして、それが5年ってことは、ベースとなるのが約25個。それをこの2年ほどでつくり切ったってことか。すごいな。しかもすべてがオリジナルでしょ?

はい。完璧にオリジナルです。その基本プログラムを、生徒たちの状況を見ながらアレンジして使っていく感じですね。ここまでやれている学校は、まだ日本にはあまりないはずです。

いいね、その自負心(笑)

はい。そこには自信があります。後は成果を出すことですね。

その成果っていうのは?

やはり学校や保護者の方から求められているのは、進学実績との結びつきですよね。実際に地方にある学校では、探究的な学びが進学実績につながり出しているところもあって、一部では話題になっています。

でもそれってもともと偏差値が高い学校なんじゃないの?

もちろんそういうケースもありますね。

だってさ、極端な話、例えば灘高校が「これからは探究的な学びに力を入れます」って打ち出したとしたら、結びつくもなにも、探究をやろうがやらまいが、どちらにしても進学実績がすごいっていう話やん?

そうですね。確かに進学校がやれば、何をやっても、もしくは何もやらなくても結びつきます(笑)。そういう学校と、実績の数字だけで比べられると、しんどいですね。後は1学年に1〜2クラスくらいしかない学校と比べられることもあります。探究的な学びの効果を高めるには、先生の数も重要なので、追手門のように1学年で400人くらいいる環境では、そういう学校と比較されるのも厳しいかなと。

ゼロからスタートして、すでに一定の影響力を持ちつつある池谷先生の挑戦はまだまだ続きます。

追手門の探究科は、非常にバラエティに富んだ授業を展開しているし、『オードライブ』っていう“きらびやかな”オウンドメディアを教科独自で運用しているから、まるで学校から潤沢な予算を充てがわれているように思われがちって話をしてたよね。でも決してそうではないってことを、俺がここで証明しておくわ(笑)

ありがとうございます(笑)。でもそれは本当にそうなんです。

特にプログラムに関しては、先生たちの頭を使っているだけやもんな。

はい。完全に自分たちの手弁当というか、そこに割けるだけの費用はないですね。もちろん公立の学校と比べると、少しは使えるお金はあるかもしれません。でもほとんどはこのオードライブの運用に使っています。しかも取材や撮影の費用は、タケシ君にめちゃめちゃ値引きしてもらっているくらい。

プログラムで使うお金って言えば、例えばレゴブロックとかを買うくらい?

そうですね。そういう備品を毎年ちょっとずつ買い足して、大切にためていっているだけです。あとは外部からゲストを呼ぶにしても、オードライブの対談などで親交を深めて協力してもらっているだけ。その代表的な例が、先ほども出てきたエイブルトンとのコラボです。あれに関しても、機材を無償で提供していただいていて。本当にありがたい話ですね。

脳みそと人脈でプログラムを構築していて、お金はほとんどぜんぜん使っていないってことね。それでもできるってことか。

はい。だからこそ、どんな学校の、どんな先生にだってやればできるはずだし、僕たちもこれから先、そこを追求し続けていきたいですね。

ここまでやれている
学校は、まだ日本には
あまりないはず。

INTERVIEWER'S VOICE

池谷陽平

振り返ると、ここまで探究科の歴史はO-DRIVEと共にあるなと実感します。生徒の声や座談会、対談を通して自分たちがやっていることを再認識したり批判的に見たり。たくさんの人に支えられながら続けてこれました。これからももっと多くの人に何かを届けられるように、たけしくん(雨森社長の方がいいかな)、お願いします(笑)

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