探究科 座談会その6-前編-

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SPECIAL

2022.09.05UP

授業完成への道のりは十人十色。その中に見つけた共通点とは!?

MEMBER

池谷陽平探究ドライバー

眞鍋綾探究アーティスト

上月龍太郎探究クリエイター

佐藤佑平探究ストラテジスト

牛込紘太探究キュレーター

それぞれに違う“軸”を持つ5人に
共通する部分はあるのか??

今回のトークテーマは、授業をどうつくっていくのか。2022年も、前例も答えもない世界で独自のプログラムを構築していく探究科の5人のメンバーたちが、自由にディスカッションを交わす中でうまれた新しい発見とは?

収録日:2022年6月16日

Theme1

担当する教師との関連性が
授業のオリジナリティの鍵。


池谷

2022年度も探究科の教師による座談会をやっていこう。今回のテーマはずばり「授業をどのようにつくっているか」。プログラムを組み立てる工程やきっかけなどを聞いていきます。ではまず上月先生から!


上月

僕は「ひとつの動詞」からスタートすることが多いですね。そこから生徒にどういうことをしてほしいかを考えているうちにカタチが見えてきます。


池谷

へぇ……、動詞か。じゃあ例えば「醸す」なら?


上月

いや、ムズ! なんでそんなレア動詞が出てくんねん!!(笑)


池谷

ごめんごめん(笑)。じゃあ「つなぐ」にしよう。その場合はどう考えるの?


上月

まずは「つなぐ」という動詞から連想される行動をとっている生徒の姿を思い浮かべて、次にどうやったら楽しんでくれるかなって考えると、必然的に準備することが決まってきます。そこに学年ごとのテーマ、例えば今年の高2なら「アントレ」をどうやって組み合わせるかを考えますね。さらにそこに、なるべく自分が経験したことを落とし込むようにしています。


池谷

じゃあ上月先生がつくったプログラムは、上月先生の経験にもとづいていることが多いってこと?


上月

そうですね。ひとつ例を出すなら、家電や家具といった大きな買い物をする時に、僕はお店に足を運んで店員さんとたくさん話すようにしています。そこでいろんな質問をされて、僕が答えて、その上でオススメを提案されるわけですよね? その結果、満足度の高い買い物ができます。つまり授業でもそいうのをやりたいなぁって思ったりしていますね。

今年度も上月先生が、探究科の切り込み隊長としての役割を担います。


眞鍋

あ、もしかしてそこからできたのが「ニーズ・ウォンツゲーム」ですか?


上月

そうそう。さっきのお店での経験を抽象化すると「会話を通して相手がなにを考えているか予想する」そして「その予想の精度を高めるために、いい質問をする」のふたつになるなって考えました。それを楽しみながら体験してほしいと思ってつくったのが、あのプログラムですね。


佐藤

ってことは、あのゲームって上月先生のオリジナルってことですか?


上月

いや、他の文献も参考にしているよ。僕はよく本やネットにのっている情報の名前だけを借りて、内容を自分で考えることが多いので、今回もそれだった気がします。


池谷

確かに授業をつくる上で、その内容がプログラムを構築した先生、もしくは授業を担当する先生ときちんと関係したものかどうかっていうのは、すごい重要なことだと思う。自分とは紐付かず、イメージや想像だけで完成させた授業って、何が起こるかほんまに分からへんものになりがちやから。


上月

それはすごい共感できます。


池谷

その上で、先生と授業の関連性が強ければ強いほどオリジナリティも強まるんじゃないかな。じゃあ次は牛込先生どうですかね?


牛込

はい。僕は「可変」をテーマに考えることが多いですね。


池谷

可変? それは具体的にはどういうことですか?


牛込

「置き換えられる」ということに重点を置いているって感じですかね。探究での学びをそこだけで終わらせてしまっては意味がなくて、どうやって自分のやりたいことに応用させるかが重要なので、カスタマイズ性があり、「余白」の多い授業の構築を意識しています。

授業にカスタマイズ性を持たせ、生徒自身に考えさせる授業を意識すると話すのは、牛込先生。


池谷

「余白が多い」というのは、抽象度が高いってことですか?


牛込

そうだね。できるだけルールはもうけず、生徒たちが自由にできるようにしています。そうやっていろいろなことを経験し、様々に考えて、その蓄積を自分なりに表現するのが探究という教科が目指すべき状態だと思っているので。


池谷

なるほど。確かに高1では「実際にやってみて気づくこと」を大切にしていて、さらに僕は、その先にあるリフレクションにつなげてほしいって思っています。やりながら感じたことに自分の思考をのせて、これからの教訓になるのが理想だから。学年が上がるにつれて牛込先生の授業スタイルがデフォルトになるのがベストですね。


牛込

そうですよね。ただ高1ではそこまではできないので、メンタリングや会話を通して生徒の考えを引き出すようにしていますよ。

探究での学びを
そこだけで終わらせて
しまっては意味がない。

Theme2

いちばん大切なのは生徒の声。
“つくる”より“合わせて”いく。


池谷

じゃあ次は眞鍋先生に聞いていこうかな。例えば中3でやっていた「想像力」がテーマの授業には、どういうきっかけがあった?


眞鍋

あの時はまず、生徒たちに「将来やりたいこと」を聞いていました。すると誰でも知っているような職業しか出てこなくて。そこからもっとこの子たちの想像力を鍛えてあげたいって考えるようになりました。


池谷

つまり生徒の声がきっかけってことか。


眞鍋

そうですね。私が授業をつくる時に必ずするのが、前の週のリフレクションを見ることです。その内容によって、直前だったとしても内容を変えたこともあります。だから前の週がない時が1番つらいですね。新年度の最初の授業とか、夏休み明けとか。生徒の反応がない状態で組み立てるのはめちゃめちゃ苦手です。


池谷

なるほど。眞鍋先生らしさを感じるね。変える基準ってどんな感じ?


眞鍋

基本的にはリフレクションの数ですね。特に中学生はとても素直な言葉が返ってきます。ただこのやり方だと、普段はあまり接することのないクラスを担当する時に、すごく難しいんですよね。それまでの生徒の反応をまったく知ることができないので。


池谷

生徒の反応を前提につくったプログラムだから、まったく知らない場所で急に展開をするのは大変ってことか。

生徒の反応によって、柔軟に授業を変えていくのが眞鍋先生のスタイル。


上月

生徒たちの声を正確に反映した授業って、必ずつくれるものなの?


眞鍋

そこが難しいところですね。ちょっと無理矢理に内容とつなげることもあって、それが成功する時もあるし、失敗したこともあります。でも基本的には頭の中にアウトプットのストックがたくさんあって、生徒たちの反応をみて1番マッチしそうなものを引き出すやり方をとっていますね。


上月

なるほど。


池谷

眞鍋先生自身がやらせたいと思うことより、生徒たちの意向を大切にしている感じやね。


眞鍋

そうですね。だから例えば本当は「ファッション」をアウトプットにした授業をやってみたいんですけど、それにマッチする生徒の声が出ることがなくて……。結局まだ実現には至っていないんですよね。


池谷

眞鍋先生はアウトプットのアイディアをたくさん持っているので、「新しく授業をつくり出す」というよりかは「合わせてつくる」という感覚に近いのかもしれないね。生徒の声に対してどの選択肢を選ぶのか。それが授業つくりのきっかけになっている風に感じる。


佐藤

僕も眞鍋先生に似ているところがあります。


池谷

ほう。じゃあそのまま佐藤先生に聞こうかな。

佐藤先生は今年度、高校1年生の探究プログラムの責任者を務めます。


佐藤

僕は授業が終わった時の生徒の状態をイメージすることからつくっています。当然リフレクションも参考にするんですけど、それは反応ってよりもそれぞれの生徒がどこまで進んでいるかを把握しておきたいからなんですよね。


池谷

生徒の声を起点とするっていう点で眞鍋先生と同じってことね。ただしリフレクションはベースに授業をつくるのではなくて、個々の進捗とか習熟度みたいなものを知るために使っていると。


佐藤

はい。あとあらかじめ複数の進め方を用意した上で授業に臨んでいます。それはさっき上月先生のつくり方に対して池谷先生が言っていたとおり、実際に授業を担当する先生のオリジナリティを出してもらいたいと思っているからですね。スライドとかも8割くらいの完成度で渡すことが多くて、残りの2割を先生によって変えてほしいと思っています。


池谷

なるほど。ちなみに佐藤先生は高1のプログラム制作における責任者であって、その観点からなにか意識するようになったことある?


佐藤

今年意識していることで言うと、生徒が考える時間をちょっと減らしたいということですね。長く時間をとってもその分悩んでしまうこともあると感じていて、それなら先生たちが具体例を出してもいいと思っています。例えば「違い」に目を向けるプログラムをやった時には、もう最初から違いを生徒たちに感じさせて「じゃあ本番いってみよう!」ってテンポよくいっていますね。


池谷

分かる、分かる。俺もインプットの段階で生徒たちが考える時間が長いほど、アウトプットの時に手が動かなくなると感じていて、だから最近はインプットがどんどん短くなっている。結局のところ「手を動かすっていうのに尽きる」って思っているかな。


佐藤

そうなんです。だから1学期は活動の具体例をパッと出して、その感覚が残っている間に本番のプロジェクトに向かわせていました。そうしているうちに思いついたのが、「ピクトグラム」です。


池谷

あれは今年からスタートさせたプログラムだよね。どういうプロセスってできたの?


佐藤

「世の中には情報が多すぎる」と感じたのがスタートでした。生徒たちが自分に関連する情報を持ちすぎていて、それを使いこなせなくなっていると思ったんです。だからどんどん引き算をしていくことで、すごくシンプルな本質が残るのでは? と仮定して、そのアウトプットとして、物事を単純化することでつくられるピクトグラムに辿り着いた感じです。


池谷

情報を付け加えていくんじゃなくて、削ぎ落とすことを狙ったんやな。


佐藤

そうですね。増やすのは今までやっていたので、減らすことに注目したくて。


池谷

つまり佐藤先生も眞鍋先生と同じように、先にアウトプットを決めてしまうことはないってことやね。目的やコンセプトを決めた上で、生徒たちの状態を見て、それに対する最適なアウトプットを選んでいるというか。


佐藤

はい。あくまで生徒がいちばん大事なので、そういうカタチをとっています。

生徒たちの反応をみて
1番マッチしそうな
ものを引き出す。

Theme3

見いだされた共通点に
探究の本質があった!?


池谷

みんなの話を聞いていると、それぞれにプログラムをつくる上で軸になっているものがあるみたいやね。例えば上月先生なら「経験」で、牛込先生なら「余白」、眞鍋先生と佐藤先生は「生徒の状態」になるのかな。


上月

じゃあ池谷先生が意識していることってあります?


池谷

俺は「オリジナリティを引き出す」ということをいちばん大切にしているかな。例えば「生徒たちの作品はジャッジしない」って言うのが俺たちの共通ルールだよね。とはいえ「この作品、ええな!」って感じてしまうこともある。だからそもそもジャッジできないインプットとアウトプットを考えるようにしているよ。例えば「絵を描く」場合、どうしても上手い下手とか良し悪しの判断が生じてしまうから、そうならないものを題材に選ぶとか。だから基本的にアウトプットは最後に考えてる。


眞鍋

え、最初やと思ってました。


池谷

いや、アウトプットからスタートして、あまり成功したことがないから(笑)。だからコンセプトとか目的から考えるようにしてる。例えば「記憶」をテーマにするとしたら、まず自分の記憶がどう残っているかをブレストしてから、それに適したアウトプットをつくっている感じ。そのやり方でめっちゃうまくいった手応えがあったのが、中1でやった「第三の目」

自身の経験を踏まえて常につくり方をアップデートしつづける池谷先生。


眞鍋

あれって、導入はめちゃめちゃ短かったですよね。すぐに手を動かしていた気がします。


池谷

そうそう。これはさっき佐藤先生も同じことを言ってたけど、なるべく導入はシンプルにするのが最近のやり方。授業の最初のメッセージは簡単に済ませて、とりあえず手を動かさせているね。プログラムをつくる工程においても、中身を生徒に伝える時にどれだけ簡単に言えるかはすごい意識していると思う。複雑にしたせいで考える時間が増えて、アウトプットに進めないってなったら意味がないと思っているからね。


上月

なるほど。単純化するのに力入れているんですね。


池谷

うん。アウトプットの方法は本とかネットとかを参考にすることもあるけど、そこに関してもシンプルであることは忘れないようにしている。

授業のつくり方は多種多様。他のメンバーの考えを参考にしていきます。


上月

ここまでの話を聞いて、生徒たちの行動が、自然と多様化されるプログラムをつくるという意識を、全員が強く持っていると感じましたね。その方法はそれぞれの先生で違いがあるようですけど。やはり探究という教科は、他とちがって、同じ課題に対して、異なる答えにたどり着くことが正解でもあるので。


池谷

お、まとめてくれて、ありがとう。確かに探究の場合は、授業のプログラムをつくる段階から、他の教科とは発想を切り替えないとあかんよね。


上月

今の高2は、それができているように感じているので、いいかなって勝手に思ってます。はい。


眞鍋

なんとザックリとしたまとめ方!!(笑)

生徒たちの行動が、
自然と多様化される
プログラムをつくる。

後編は9月12日に公開予定です。

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