タイガーモブ株式会社 共同代表取締役COO 中村寛大

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INTERVIEW

2023.09.07UP

すべての子どもたちに、挑戦する権利を。そしてたくさんの変容を。(後編)

PROFILE

中村寛大

タイガーモブ株式会社 共同代表取締役COO

タイガーモブ株式会社共同代表取締役 1989年栃木県生まれ。2012年立教大学卒業。
人材コンサルベンチャーへ新卒で入社後、スタートアップ企業からグローバル企業まで数多くの採用や教育組織開発のコンサルティングを手掛ける。
そのかたわら、就職活動をする学生のサポートを6年間実施。その後、ECベンチャーへ転職、人事部門の役員を務める。
2018年、タイガーモブへ入社。内閣府青年国際交流事業、文部科学省WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)などのプロジェクトに関わる。
現在、全国約100校の中学校・高校へのカリキュラムや海外修学旅行を提供し、年間約3,000人に挑戦する舞台を届けている。
チャレンジャーであふれた世界をめざし、2022年には世界の最前線を舞台にした学校「TigerMov School」を立ち上げる。
「Learning by Doing(実践を通じた学び)」を軸に日本の学びを変革する実践家。

INTERVIEWER

池谷陽平

探究科 Driver

Theme1

行動はそれぞれの興味に合わせて。
学びの意味や必要性を自覚する。

タイガーモブらしさが詰まっているようなプログラムをひとつ例として教えていただけますか?

どのプログラムも“らしさ”は入っていると思います。例えばこの前、追手門の生徒さんにも参加してもらったものだと、インドネシアのバリ島でのプログラムですね。『気候変動』とか『サステナビリティ』などをテーマにしながら、現地の人に対して自分らしく貢献できる方法を探すというのをミッションに掲げた活動でした。

参加者たちは、それぞれバラバラに動く感じですか?

はい。そこがまずひとつのタイガーモブらしさですね。現地に入ったら、一人ずつローカルのメンターがついて、後は好きなことをやってもらいます。例えばマイクロプラスチックに興味がある子だったら、それに関連するNPOや企業にアポをとって訪問していましたが、それに興味がない子は当然そこには行きません。参加者によって関心があることはバラバラ。ごみ問題、コーヒー、フェアトレード……と、それぞれの興味に合わせて勝手に動いていく感じです。だからその期間は、バリ島の中で、日本の若い子たちがワチャワチャと動いてる、みたいな(笑)。あとは『100人インタビュー』っていう企画をやっていたので、街中でインタビューしまくっているけど、あの子たち、何? みたいな(笑)。それもまたタイガーモブらしいかもしれません。

すごくいいですね。しかもそれ、英語の勉強にもなりますよね。

はい、めちゃめちゃなります。同じフレーズを何度もミラーリングするので、どんどん聞けるようになるし、どんどん話せるようにもなるんですよね。あとは活動を通して、現地の人たちに感謝されたり期待されたりするので、知らないうちにそこが自分にとってのサードプレイスだと思えてくるんですね。それもタイガーモブのプログラムの特徴だと思います。

そして帰国後もそれぞれに活動を続けているんですよね。

そうなんです。現地で知り合った農家さんから大量にコーヒーを仕入れて、学校の文化祭でたくさん売り、その収益をまた農家さんに寄付した例もあります。あとは訪問した国では経済的な理由で学校に通えない子どもたちがいるので、それを解決するための資金に活用してもらったり。さらに肥料をつくれないことが原因で生産量を上げられない農家さんのために、有機肥料を作れる装置を寄付したという話や、飲み水の問題を解決するために、バクテリアが一瞬で除去される装置を開発したという話もありました。そうやって日本に帰ってきてからも、それぞれにやりまくるし、しかもできまくるっていうのも特徴のひとつですね。

実際の取り組みとしてプログラムの中身に言及していく中村氏。

池谷先生は共感しっぱなしで思わず笑みがこぼれます。

前編に引き続き山口氏(左)と芦田氏(右)にも参加していただきました。

参加者たちの状況を、どのように管理しているんですか?

一人ひとりに「カルテ(仮)」と呼んでいるシートをつくっていて、我々はそれをずっと見ています。カルテ(仮)は現地に行く前から用意していて、たとえばこの子はこのプログラムを通して何を成し遂げたいのか、またどういった仮説を持っていて、そのためにどういう計画を立てているのかといったことが書かれています。さらにその子に対して、我々はどのように関わり、どのように向き合えば、自己実現のサポートができるのかまでが確認できようになっていますね。

ほんとうにお医者さんのカルテのような感じですね。

あ、そうです。もちろんそれぞれの体調の管理も行うので。そこも含めた成長を記録するために、毎日更新していくのがカルテ(仮)です。それを見つづけることで、個人の成長や成功体験を感じられるし、僕たちも面白いですよね。

『サバンナ・サバイバル・キャンプ inアフリカ』の様子。目を疑うような光景が満載です。

確かに安全面や健康面を考えると、いろいろと難しい部分もありますが、どんどんと変化・成長していく子どもたちを目の前で見られるのは、私たちにとってもすごくいい機会になります。そしてこの子が学校に戻ったら、どう変わっていくんだろうとか、自身の体験を友人たちに発信することで輪が広がっていくのかな、と考えるとワクワクしますよね。

2023年に出版された自著を手に。
「毎日学校に来なくていい」なんて暴言も飛び出す!?

帰ってきた後の学校での勉強にも良い影響を与えそうですね。

それは本当にあって、海外での“ヤバい経験”をすることで、そちらばかりに目が行くのかなと思いきや、実は「勉強を頑張りたくなった」と話す参加者が多くて。

それはどういう心境なんでしょう。

例えば、現地の人とよりスムーズなコミュニケーションがとれたら、もっとプロジェクトが先に進んだのに、と感じた子がいるとします。そうすると英語を学ぶ意味を自覚するんですよね。あとは分析をするのが下手で悔しい思いをした結果、それまで大嫌いだった数学がめっちゃ必要だと感じて勉強するようになった例もありました。それってすごくいい流れですよね。社会科学の領域から入って、自然科学のことを学び、また戻ってくる。そこがループするように設計されているのも、タイガーモブのプログラムの特徴と言ってもいいかもしれません。そういうサイクルを学校の中でつくるためにも、私たちがいるっていうふうに捉えてもらえると嬉しいですね。

すごくいいですね。そうなると、やっぱり……学校は週に2〜3日でいいな……。

アハハハハ!!

本当にそう思います。好きなこととか、やりたいことをベースにすると、勝手に教科とか領域を横断するんです。好きなことを追求して「実現したい!」って強く思えば思うほど、必要な知識やスキルを自覚するので、その時に「もっと勉強をしないといけない!」「もっと学びたい!」って自然と思うようになるし、あとは「その知識を得るのに必要な大人の人を捕まえないといけない!」とも感じるはずで。そうすれば仕事も学びも遊びもすべてが一緒になって、自分の人生を切り拓いていくこともできると思います。

そうですね。そして我々のようなサービスと、学校が協働する意味合いも大きくなりますね。

はい。自分が好きなこと、やりたいことへの感度が高い状態でいるためのプログラムがタイガーモブにはあるので、学校ではそこに必要な知識やスキルを与える役割を担えるはずです。例えば「実現したいことが見つかったから、そのために英語は必要。だから火曜は学校に行って、英語を学ぼう」みたいな。でも水曜は別に行かなくていいっていうようなサイクルができればすごくいいですね。

社会科学の領域から入って
自然科学のことを学び
また戻ってくるループを設計。

Theme2

成果物より、プロセス。
そして理論より、ひとりの物語。

プログラムの中で、中村さんたちのような参加者を引率する立場の人たちの呼び方というか、肩書みたいなものはあるんですか?

ありますよ。我々は『アクセラレーター』と呼んでいます。

なるほど。その意味合いはすごくいいですね。というのも、学校だともちろん『ティーチャー』なんですけど、そう呼んだ時点で、もはや個人に寄り添うことを諦めちゃっている感があるんですよね。

あぁ、それは分かるかもしれない。

40人のクラスに1人の担任。その時点で、物理的に一人ひとりを見るのは難しいわけです。実際、1対1で話すのなんか年に3〜4回。もちろん先生個人の努力や工夫で、もっとできなくはないんですけど、それよりも「全体を見る」ということが優先されているのが現状です。でも「このクラス全体をどうしよう」みたいなことって、本当はどうでもいいんですよね。「優しい子になろう」とか「〇〇と〇〇を達成しよう」とか、クラスの目標みたいなのを掲げたりするんですけど、そんなの、ぶっちゃけどうでもいいはずです。それよりも個人が何がしたいかに目を向けるべきで。

なるほど。それは受験に関しても同じことが言えるんですか?

そうですね。『受験は集団戦』ってことにして、「みんなで頑張ろう!」とか言って誤魔化しているところも多分にあると思います。だからこそ、ここまでお話を聞いていて、タイガーモブのみなさんが徹底して個人に向き合っている姿に共感したし、学校側が与えた課題を解決しにいくわけではなくて「どの場所で、誰に貢献するのか」を自分で決めていることにも、すごく共感できました。でもそれって学校でやるのは本当に難しい。どうしても「〇〇という課題があるから、それをみんなで解決しにいこう」といった展開になるんですよね。

それに関連して話すとすれば、実はプログラムを通して成し遂げたことが、その子の財産になるかっていうと、実はそれ以外の部分が大きいこともあるんですよね。もちろんアウトプットしたということは、成果物として素晴らしいんですけど、そのプロセスの中で“自分という人間の輪郭”がはっきりとしているというか。

そこも大きいですよね。仮に成果物として出てこなかったとしても。

そうなんです。「これが本当に好きだと再確認できた」とか。逆に「自分がやりたいのはこれじゃなかった」とか。あとは「もっとこういう風な自分でありたいと感じた」みたいな。そういうことに意識が行けば、めちゃめちゃ価値のあることだと思います。

その価値を保護者を含めて、社会全体が気づいてくれれば未来はとても明るいですよね。特に教育現場においては、成果物にフォーカスしがちだから。「このプログラムに参加することで、どういった知識が身につくんですか?」みたいな方に意識が行くんですよね。

多くの参加者に挑戦の機会を与えた中村氏。表情には、優しさと自信が宿ります。

学校の先生として、個人に寄り沿う難しさを吐露する池谷先生。

タイガーモブに参加した子どもたちの保護者の方たちの反応はどうですか?

毎回『事後報告会』というのをやっていて、先日は池谷先生と同じ探究科の牛込先生にも参加してもらいました。そこに保護者の方が積極的に来てくれていて、場合によっては参加した子どもは来ないのに、親御さんだけ来る、みたいなこともあります。どうやら自分の子どもが参加したプログラムがどのようなものだったのか、お子さんから直接は聞きにくいから来てくださるみたいです。この前も保護者の方が「本当にいい休日だった」「日本の未来は明るい!」みたいな話をされていましたよ。

親御さんの反応も概ね好評なんですね。

はい。中には学校の教師をやられている方もいて「うちの学校でも取り入れたいけど、どうすればいいの?」と聞かれることもあります。ほんの少しの期間の体験で、人としてここまで変わるというその価値を認めてくださる大人がとても多いですね。たくさんの方に応援してもらっています。

それ、すごく大事なことですよね。保護者の方にファンになってもらうっていう。

そうなんです。それを見て感じたのは、教育の世界って論理的に説明することよりも、一人の物語の方が大事なんじゃないかなということ。「ロジック」や「メソッド」みたいなものが叫ばれがちですが、実はそれよりもひとりの子どもが私たちが提供する機会に触れることでこんな風に変わりましたとか、その子の人生にどれだけの変容を与えられるかってことの方がインパクトとしては大きいと思うんです。そこにフォーカスして学びを提供していくのが、僕たちの仕事。その積み重ねが共感を集めたり、ファンを増やしたりすることにつながって、最終的に社会を動かしていく気がします。

事後報告会の様子。保護者の方と価値観を共感し合えている様子が伝わってきます。

あと僕が思うのは、“成長”という言葉の定義づけが大事だなと。というのも、学校にいても子どもたちは成長します。例えばプレゼンがうまくできるようになったとか。あるいはじっと座っていられるようになったとか。いろいろな尺度で成長を測る人がいるんですが、それを本当に“成長”と呼ぶかどうかは、本人次第のはずです。あとは「発達段階がそれぞれ違うから、成長も違って……」とか、発達段階のことを何も知らない大人がドヤ顔で語ったり(笑)。成長とか変化とかって、すごく使われやすい言葉なんですけど、できるようになったこととともに、自身のあり方という観点で語るようにしたいですね。

こちらはドバイでのプログラム。大人でもなかなかできない経験を通して、どんな変化が生まれるのか。見ているだけで楽しみになります。

「フィリピンで先住民族の村にどっぷり浸るフィールドワーク・キャンプ」と題して行われた研修。参加者たちのイキイキとした表情が印象的です。

まとめとしては、やはり先生が一人ひとりの生徒に向き合えていないところが学校の問題の原点としてあると思います。中学校はまだ数が少ないので、やりやすい。でも高校となると、うちで言うと1学年400〜500人になって、一人に向き合うなんて、到底できません。中村さんの言うように、理論ではなく、学校を生徒一人ひとりの物語を紡いでいくような場所にできればいいなと本当に思います。

そうですね。僕たちみたいなプレイヤーと、学校の中にいる先生たちが話し合いながら、学校の存在価値や意味を問い直す時期なのかもしれません。互いに手を取り合って、次の時代をつくっていく子どもたちをしっかりとサポートしていきたいですね。

教育の世界では
論理的な説明より
一人の物語の方が大事。

Theme3

日本、そして世界へ。
すべての生徒に挑戦の権利を。

では最後に、タイガーモブでは、ビジョンや価値観の共有や、進むべき方向の確認など、どのように行っているんですか?

私たちは普段はフルリモートで仕事をしていますが、3ヶ月に1回、2泊3日くらいの合宿があって、そこで長期的なビジョンや会社のフィロソフィーについて話す時間があります。そこで寝る間も惜しんで、アーでもないコーでもないと話合っていて、次の日は声がガラガラっていう(笑)

あ〜、でもいいですね。楽しそう。キャンプとかでやると最高ですね。

そう。本当に最高です。初めて参加したメンバーからは「え、みなさん、寝ないんですか?」みたいな感じで驚いています(笑)。そこでは、長期的なビジョンもそうだし「この生徒さん、こんな感じだけど、どう接するのがいいかな?」っていう個別の話も出てきたり。あと登山をしている途中でいきなり「あのプロジェクトに参加していたあの子がさ……」みたいな話が出てくることもよくあります。

「いま、ここでその話?」的な(笑)

そうなんです。そうやって日常的に、またフラットな感じでディスカッションを行うカルチャーがあって。今日、ここに来る電車の中でも、「このプログラムの事前学習は、こうやった方がいいよね?」みたいな話をしていました。あとは「“思い出”っていいコンセプトだね」「“思い込み”から学ぶことってたくさんあるね」みたいな話もしながら。そういう日々の会話からプロジェクトが生まれることもあるので。常に全員が「もっとよくできることはないか」を考えて、新しいものを生み出そうとしている感じです。

やはり改善していく文化が大事だと思います。自分たちで課題を発見して、分析、検証して、データをとりながら、実行する。そして上手くいったのかどうか、この方法は良かったのか、それをちゃんと振り返る。そこが大事ですよね。良かったのであれば続ければいいし、子どもたちに対してベストなソリューションではないのであれば、その方法はすぐにポイッと捨てる。そのサイクルをガンガン回して、常に自分たちが変化し続けられるコミュニティでありたい。

それは僕もすごく共感できます。やっぱり大人って、なかなか捨てられないんですよね。あと振り返るってことも、なかなかやらない。

そうなんです。振り返ることもしないし、振り返るための材料も残さないことが多いので、意識してやらないとだめですよね。

こちらは合宿での1枚。夜通しで語り合った後でしょうか。それともこの後に語り合ったのでしょうか……。

近い未来として、考えていることはありますか?

やはりある種の教育機関でもある以上、ちゃんと成果が出るというところは非常に大事に考えています。つまり「人がチャレンジャーになっていく確率を高める」というのが我々がするべきこと。そのために事業活動のうちのコンスタントに5割くらいは挑戦に費やさないといけません。それによって、若い人たちの変容がたくさん生まれてくると思います。

まずは社内での挑戦を忘れないと。

はい。次に今の日本の中学1年生から高校3年生までで考えると、約600万人くらいの人数がいるので、そのうちの1万人とか、もしくは都道府県別に100〜200人くらいにプログラムを提供できるようになって、さらにその半分くらいが帰国後に「めっちゃ変わった!」みたいな成果が出ていれば、この国はもっと明るくなるし、未来に対してポジティブになれる子どもたちが増えていくと思います。ここから3年ほどは、そういうところに注力したいなと。

なるほど。具体的な数値目標としては、1万人にタイガーモブのプログラムに参加してもらうということですね。

その後はより積極的に海外に進出していきたいと考えています。ただしそれはお金がかかることでもあるので、スカラーシップのような仕組みを構築して、その機会にリーチできない人に対して金銭的なサポートするといった構想もあります。そもそも可能性というのは平等なもので、挑戦する権利は誰もが持っているはずです。僕たちがそのサポートをするので、誰もが挑戦する権利を行使してほしいですね。

その権利に気づけず、選択肢としてそもそも持っていないと思っている生徒もいますもんね。親や先生も気づかせてあげられないというか。

そうなんです。そういう子どもたちの機会をきちんと担保するというのは中期的なビジョンの中でも重要な項目です。そういった活動を通して、ずっと挑戦を科学するということをやり続けていきたいですね。

分かりました。挑戦を科学する……か。素晴らしい! めちゃめちゃおもしろかったです。共感しかない! そして羨ましさしかありませんでした!!(笑)

可能性は平等なもので、
挑戦する権利は
誰もが持っているはず。

INTERVIEWER'S VOICE

池谷陽平

タイガーモブのプログラムはもちろんですが、中村さんの考え方というか、感性には前から惹かれるものがありました。今回こういう形で話を聞くことができて、確信しました。本気で子どもたちの複雑さに寄りそっていないと出てこない言葉たちですね。本当にありがとうございました!

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