土佐塾中学・高等学校 野崎浩平・藤澤佑介

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INTERVIEW

2022.03.16UP

教育への還元を通して、困っている人を助け、自分も楽になるために。(後編)

PROFILE

野崎浩平・藤澤佑介

土佐塾中学・高等学校

藤澤佑介(ふじぽん:写真右)
現役の英語教員。学校では総合学習主任、受験指導室付を担当|学校が「セカイは変えられる、ミライは創れる」という感覚を育める場になってほしいとYouTube、ポッドキャスト等を通じて情報発信中|教育におけるICT活用を推進するGoogle Educators Group (GEG)の高知支部GEG Kochiを2019年7月に立ち上げる|先生の学校クリエイター

野崎浩平(のざたん:写真左)
現役の理科教員。現役教員が学校の枠を越えてフラットに気軽に対話できる場(会いに行けるセンセイ)を提供中|GEG Kochi co-Leader|LEGO®SERIOUS PLAY®メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテータ|先生の学校クリエイター|Ryomafrogs実行委員・メンター|

INTERVIEWER

牛込紘太

探究科 Curator

Theme1

“カオス”の中でも待つ覚悟。
それは生徒を見ているからできること。

(前編はこちら

『まなび創造コース』が始まって約半年。手応えはどうですか?

はい。私たち土佐塾中学・高等学校(以下「土佐塾」)がずっと行ってきた“ガチガチに管理する”というやり方の反動もあって「なるべくルールをつくらない」という方針でスタートさせたのがまなび創造コースなんです。できるだけ先生からの指示をなくして、生徒たちにやらせる。そうすると失敗をすることも当然あるけれど、それでよくて、そこから「失敗したけど、じゃあどうする?」と問いかける。そういうアプローチをとろうとしています。

なるほど。いいですね。でもそれって授業のマネジメントが難しくないですか?

そうなんです。教室がけっこうカオスな状態になっていって(笑)。その時にこれまでと同じように「こうしなさい!」「こう並びなさい!」と言ってしまうのはとても簡単なんだけど、それをやりたくないから立ち上げたコースじゃなかったっけ? っていう疑問がうまれます。だからこのカオスな状況をどう捉えるべきなのか、まだ我々教師も戸惑っている部分がありますね。

でも昨日、追手門の探究の授業を見学させてもらった中に、ヒントとなるようなことはありましたね。ハードの部分というか、教室のデザインというか。例えば生徒の座り方ですよね。あれってどこまで先生側で決めたことなんですか? 生徒たちが自由な席を選んでいるんだけど、完全な自由ではなくて、“型”みたいなものはあるように感じたんですよね。

複数人のチームになってワークを行う時は「ひとつのテーブルに何人を座らせるか」っていう部分は、毎回かなり議論します。そうすると適正な人数がある程度は見えてくるんですよね。基本的には多くて5人。6人になった途端に機能しなくなります。座り方というか、型みたいなところまでは特に決めてないですけど、例えばテーブルの真ん中に模造紙を置けば、生徒たちもバカじゃないんで、間を開けないように座りますよね。

あ、そうそう。そういうことです。“テーブルに模造紙を置く”という行為が、自然と「間を空けずに座ろうね」っていうひとつのサインになっているというか。そういう点はすごく参考になりました。

「いまだ戸惑いがある」と告白するのは『まなび創造コース』の立ち上げから関わった「ふじぽん」こと藤澤先生。

「のざたん」こと野崎先生は、追手門の探究の授業の中で、ヒントを見つけられたと語ります。

でもカオスの状態の時期は必ずあると思いますよ。

あ、やっぱり追手門でもあったんですか?

もちろん。特に中学はめちゃめちゃありました。ただでさえ動き回るし、当然こっちも怒ってしまいそうになります。だけどそこでグッと我慢して、観察に徹して、その場を生徒たちに完全に預けてみるということを試してからは、割と楽になりましたね。「この子たちにも何らかの理由があって、このカオスな状態をつくっているんだ」っていう考え方です。最初はそうは思えなくてイライラしましたけど。「もう今日は授業はやめてしまおう」って思ってしばらく待っていみる。すると面白いもので絶対におさまるんです。

それ、めっちゃわかる!(笑)

ですよね?(笑)。いつまでもカオスってことは絶対にないんですよね。

先日、まさにそれが僕の授業でもありました。「今日君たちにやってほしいことはコレだから、チームで相談して決めてね。決まったら教えてね」とだけ伝えて、後は何も言わずにただただ見守っていたんです。そしたら例のカオスが始まって(笑)。でも15分くらいかな? 時間が経つと、生徒たちがそれぞれに「やった方がいいよね」「やろうよ」ってなっていったんです。そうすると、その後はすごくスムーズで。

うん。わかります。そうなるんですよね。

中には「先生、怒ってるの?」って聞いてくる生徒もいました。でも「いや、ただ見てるだけ」って(笑)。実際に全然怒ってないし。そうすると生徒たちがきちんとやり始めて、逆に周りに対して怒り出す子もいましたね。「先生の言うこと、聞けよ!」って(笑)。だから僕は「いやいや、だから僕は本当に何もおこってないから大丈夫だよ」って。あの体験はとても面白かったですね。

例えば生徒同士でケンカが始まったら、当然ながら教師が介入したくなります。でも基本的にはそれすら放置するっていうのが探究科のルールです。教師が入っても何の解決にもならないから。暴力が始まらない限り入らない。そうやって放置されると、生徒たちにも限界がくるんですよね。

そこの我慢がいちばん難しいかもしれません。特にこれまで自分のクラスをきちんとコントロールしてきたという自負心を持っている先生であればあるほど、耐えられなくて苦しくなると思います。さらに先生同士でチームを組んでやるとなると、その“我慢具合”のすり合わせも難しいですよね。

司会進行役を務めるのは、追手門の探究科に赴任して1年が経とうとしている牛込先生です。

そうですね。基本的に大人はみんな秩序が大好きだから。カオスな状態をどうにかしたくなる。でもベースはカオスでいいと思います。もちろん集団の特性によって変わりますけどね。それに“待てる”ってとてもいいことだなって感じていて。なぜなら探究ではない一般の科目の授業だとなかなかできないことだから。

はい。待てるっていうのは、生徒をきちんと見ているってことでもありますよね。

僕もそう思います。いろいろな生徒がいて、押し付けられるのがイヤだと思っている子もいれば、枠がないと落ち着かないっていう子もいます。そのなかで、きちんと先生に見られているっていうのは、生徒たちに安心感を与えることにつながる気がしますね。

カオスな状態でも、観察に徹して
その場を完全に生徒に
預けることで楽になった。

Theme2

なぜ旧来の教師像を超えて、
学校外の活動に精力的になれるのか。

同じ教師として、お二人に質問があります。まずふじぽんはずっと土佐塾に勤めていながら、積極的に学校外での活動を行っています。いわゆる旧来の先生ではない先生ですよね。そしてのざたんにいたっては、そもそも先生っぽくない(笑)

アハハハ!

それ、褒められてる?(笑)

もちろん褒めてます(笑)。お二人とも、なぜそれができるのかなって。というのも学校から一歩も出ずに、ずっと学校の中にいる先生って多いんですよね。でもお二人はそうじゃなくて。特にのざたんがやっている「会いにいけるセンセイ」という活動は、普通は絶対にできないですよね。

なんでよ(笑)。できるでしょ……。

いや、志には共感できても、やっぱりそういう結論にはならないですよね。困っている人を助けるために、学校の外で自分の時間を使うっていうエネルギーはなかなか持てないのが普通です。だから本当にすごいなと思って。

そうですか? あれにはまずベースとなる考え方があります。そもそも僕は別に教師をやりたいと思って、この職業に就いたわけではないんですね。ただひとりの大人として、子どもたちの前に立ちたくて、それができるのが教師だっただけ。いちばん長い時間、子どもたちの近くにいることができるのが教師だっただけなんです。だから他でよりよい方法があるなら今からでも教師以外の職を選ぶし、自分のことも、教師だとあまり思っていないのが正直なところで。

その考えは理解できるんですけど……。始めたきっかけはありますか?

はい、あります。僕は一般企業に勤めていた経験があるので、その慣例なのか、教師になってからも自分が参加したセミナー会場などで、当たり前のように名刺を渡していたんですね。すると相手がだいたい「あ、先生なんですか?」って確認をしてくるんです。だから僕は「なんでそんな確認をするんですか?」って聞くと「学校の先生って、こういう場に来ないから」って。みんな、学校以外の場所であまり先生を見たことがないらしいんです。

はい、よく分かります。

でも僕たち教師も、他の職業と同じく社会の構成要素のひとつなので、そういう場所に出ていくことは当たり前なのになっていう思いが元々ありました。

『会いに行けるセンセイ』の公式サイトでは、さらに詳しい情報が発信されています。

そういった環境の中で出会った人たちと話していると「先生」という職業の人に話を聞いてもらいたいと感じている人が確実にいることがわかったんです。自分の学校じゃなくてもいいので、とにかく先生の資格を持っている人と話がしたい。悩みを聞いてもらいたい。それは塾の先生ではないし、実際にわざわざ学校に行くほどでもない、みたいな。

なるほど。そういう人たちのニーズを叶える場所って、意外とないんですね。

そうなんです。だったら僕が「1週間に3時間」っていう、ほんのちょっとの時間だけ、決まった場所に体を置いておこうと思ったのが始めたきっかけかな。もちろん誰も来ない時もありますよ。でも来る時もある。

具体的には、どういう人が、どういう話をしにきますか?

いろいろですね。例えば不登校の生徒がきて、“学校外保健室”みたいな状態になることもあります。あとは保護者の方が抱えている悩みを打ち明けてくれたり。さらに最近はオンラインでもやれるようにしたので、遠方の不登校の生徒が「1時間だけ話したい」と相談してきたこともありました。それくらい話す場所ってないんですよね。そうなのであれば、僕がやっている価値はあるし、僕自身、知らない情報がたくさん入ってくるので、いい経験になっています。

なるほど。

この前は高校生から相談を受けて、その子が言うには、学校で居場所を見つけられなくて、家族にも認めてもらえない。その瞬間に「死んでもいいかも」って思ったと。正直言って「え? 何で急にそうなるの??」っていう感情を持ってしまったんですけど、とはいえそんな生の声ってなかなか聞く機会がないんですよね。

うん。そうかも知れない。

「学校でダメ、家でダメ、だから私はダメなんだ」って思うのは可哀想すぎる。そこで「僕なんかでいいの?」って聞くと「はい、聞いてくれるだけでいいです」って言うし、僕も話を聞くのが好きなので「じゃあ喜んで聞くよ」って。そうやって僕も自分の存在を認められて嬉しいし、あと『土佐塾』の名前も出しているので、学校の広報的にも、微力ながら役立っているかなと。もちろん学校の宣伝が目的ではまったくないですけどね。

撮影でも息がピッタリの3人ですが、リアルに会うのは今回がはじめて。
似た志を持つ教師同士、語らずとも通じ合うものがあるのでしょうか。

ふじぽんはどうですか? 学校以外の部分での活動に関して。

はい。今のざたんの話を聞きながら僕も考えていました。僕の場合はまず“好奇心”かなと思います。小学校の時のミニ四駆や、大学時代にやっていたアカペラのストリートライブなど、すべて好奇心が発端というか。例えばミニ四駆だったら「これをこうすればもっと早くなるかな?」みたいな感覚がありますよね。ストリートライブも一緒です。「こういう演出をすれば、もっとお客さんが立ち止まってくれるかな?」みたいな。

なるほど。すべて好奇心ありきなんですね。

あとは先にも話した通り、iPadを手にしたことで自分の世界が拡張された感覚はあります。「自分がこう動けば、周りもこういう風に変わるかも」といった可能性を感じた時に、いろいろなことが思いついて、形にしていく術が思いつきました。そもそも僕は英語教師としてはいわば“普通”なので、世界で名を馳せるようなことはできません。でも例えば『ICT』というジャンルだと、みんながスタートラインにいたから、少し調べるだけで、話せることがあるんですよね。

そういったことを、YOUTUBEなどを通して情報発信していったんですね。

はい。その結果、思わぬところから反応があったり、「セミナーをやってほしい」なんて声をかけられたりして、知らぬ間に自己効力感みたいなものが高まった気がします。あと、そんな僕を見ていたからか、僕から見てものすごく自由人だと思っていた生徒がいたんですけど、その子が卒業する時に「先生ってみたいな自由人になりたいです!」って言ってくれました。「あ、この子が僕のことを、そんな風に見てくれてたんだ」って感じて。そんな体験も自分自身にいい影響を与えていると思います。

なるほど。ふじぽんは小さな頃や学生時代の原体験がエネルギーになっているんですね。逆にいうと、生徒たちにはそういった原体験になるようなことを与えたいですね。

うん。僕もすごくそう思います。

僕たち教師も
他の職業と同じで
社会の構成要素のひとつ。

Theme3

“飽き性”の3人が見据える先。
アウトプットがインプットを呼んでくる。

僕以外の探究科のメンバーもそうなんですけど、お二人に関しても、とにかく情報へのアクセスがすごいんですよね。僕が見聞きした新しい情報は、大体すでに読み解いていて、ふじぽんのポッドキャストを聞くと、さらに深掘りされた状態で発信されています。

ありがとうございます!

探究科のメンバーも同じで、僕がちょっと気になっていることを話したら、だいたい誰かのアンテナに入っていて、それのことを深くしゃべれる人がいるんですよね。その情報のキャッチって、どうやってやっているのかなっていうのを聞きたくて。

それでいうと、僕たちは地方にいるので、やはりSNSがメインですよね。自分が尊敬している人がつぶやいていたり、自分が属しているコミュニティの中の人が気になっていることを発信していたり。

僕もそうですね。SNSは大きいです。あと大事なのは、SNSから情報を取得するだけじゃなくて、発信することじゃないかな。発信していると、誰かが教えてくれるんですよ。アウトプットをすることでインプットが活性化されます。その結果、またアウトプットができるし、さらにインプットができるのかなって。

それは同感です。自分のアウトプットの場って、放っておいてもできません。だから自分でつくるのが大切ですよね。僕の場合は最近は音声メディアに力を入れていて、インプットしたら必ずアウトプットしようって決めています。10分ほどの音声にまとめて発信する形ですね。これはトレーニングとしてもいいと思います。のざたんも話していましたが、そのアウトプットがあるから、次のものが勝手に入ってくるっていう好循環が生まれていきます。

ふじぽんが力を入れている「幸せな教員になるラジオ」は、すでに放送100回を超えています。

実はこの対談の後、SNSで発信していたのざたんからの連絡で、共同プロジェクト「muute」に両校が参加する運びとなりました.。

今後考えている構想などはありますか?

僕は色んな人が集まって教育について色々語り合える場をつくりたいなと。オンラインツールのハウツーセミナーの先の世界を探究したいねって話が出ていまして。

なるほど。リアルイベントですね?

そうなんです。教育に関するイベントですね。ローカルなつながりをつくっていきたくて。

探究に関わっている人って、飽き性ですもんね。

わかるわー!(笑)

去年と同じプログラムをやりたくないんですよね。

そうそう。それだと面白くないから。

ですよね。でもそれってすごく困ることで。プログラムが定着しないし、次から次へと新しいものをつくっていかないといけないから、ずっと自転車操業なんですよね。

大阪と高知という距離を超えて、3人の交流はますます深いものになっていくでしょう。

のざたんはどうですか?

僕は対話の講座みたいなものをやりたいなとは思っています。というのも僕、よく「話がしやすい」「話をしたくなる」と言われるんですね。そう思われるために自分が意識的にやっている部分もあるし、特に若い先生たちに必要とされるスキルなのであれば、還元していきたいなって思っています。

自分が得意な部分を活かして活動できるのはいいですね。

そうなんです。もともとはずっと先生という職業には興味があまりなかったんですね。興味の対象はただただ子ども。だけどいつからか少しだけ変わってきて、最近は教育に還元したいという思いが芽生えてきたというか。若い先生たちに何か提供できることがあるかもって感じるようになってきました。

教育業界に貢献したいと思うようになってきたんですね。

う〜ん、歳をとったってことでしょうね(笑)

まあ我々もね(笑)。とにかく今日は本当にここに来れてよかったです。やっぱり実際に見ないとわからないことがたくさんあるなと。例えば追手門の探究チームが仲がいいっていうのはこの『O-DRIVE』というメディアを通して分かっていましたが、昨日、座談会の収録を見学させてもらって、改めてチームがうまく機能していることを肌で感じたというか。この雰囲気を高知に持って帰って、色々とパクってやろうと策略中です(笑)

本当にそうだね。僕も同感です。

ここ数年、自分が教師をやる中で、いろいろとしんどい思いがありました。それは他の先生だって同じだと思います。その手助けができないかと考えるようになって、いろいろと取り組みはじめたところです。自分が楽になって、他の先生も楽になって、先生たちが働く環境がもっと楽になればいいなっていうのが根底にある願いです。今日、追手門に来たことで、そのイメージがより鮮明に湧きましたよ。

自分が楽になって、
他の先生も楽になって、
先生たちが働く環境が楽になればいい。

(おわり)

INTERVIEWER'S VOICE

牛込紘太

私も今の教育を変えていきたいと思いながらも難しさを感じている一人です。そんな中で、「僕たちに何ができるだろう?」と教師がアンテナ高く学び続けることを体現されているお二人。違う学校ではあるけれど、情報交換をしながら「自分の学校」ではなく、「これからの教育」を一緒に語ることができるふじぽんとのざたんです。みなさんにとっても共感やヒントとなる記事になっていると思いますので、ご覧ください!

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