校長ブログ

校長 木内 淳詞 Junji Kiuchi

2022.07.05

中1・中2 サイエンスキャンプしおりの巻頭言

 中1・中2の生徒たちは、7月の末に長野県へサイエンスキャンプに出かけます。今回は、私が団長です。団長になると、また、巻頭言を書くことになります。学期末は様々なところから原稿依頼をいただきます。大変ですが、大切な仕事の一つです。生徒配付はまだですが、ブログに記録しておきます。


Sense of Wonder  ~サイエンスキャンプにあたって~

校長 木内 淳詞

「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に吊るした大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指さしながら、みんなに問いをかけました。
 カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。
 ところが先生は早くもそれを見附けたのでした。「ジョバンニさん。あなたはわかっているのでしょう。」
 ジョバンニは勢いよく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえって、ジョバンニを見てくすっとわらいました。ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になってしまいました。先生がまた云いました。
「大きな望遠鏡で銀河をよっく調べると銀河は大体何でしょう。」
 やっぱり星だとジョバンニは思いましたがこんどもすぐに答えることができませんでした。

 少し長い引用になってしまいましたが、これは何かわかりますか? そう、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の冒頭部分です。と言っても、生徒の皆さんは、宮沢賢治の本を当たり前のように読んでいる世代ではありませんね。そういう私も、子どものころは、子ども用に書き直された物語しか読んでいませんでしたが。少し古い表現もありますが、この冒頭部分を読んで興味を持った人は、夏休みにぜひ宮沢賢治の物語の世界をのぞいてみてください。
 そして、そもそも、ここに出てくる「天の川」って知っていますか、また見たことがありますか? もし、知ってはいるけれど、見たことはないという人、そもそも天の川を知らないという人、サイエンスキャンプを楽しみにしてください。大阪では街の明かりが邪魔をして、天の川を確認することは困難ですが、長野県の飯田では、天気が良ければ、大阪では見られないようなたくさんの星を見ることができます。そして、私たちが訪れる日は、月が新月に近づいており、その分、他の星がよく見える可能性が高まります。
 もちろん、サイエンスキャンプの活動は、星空観察だけではありません。ラフティングも体験しますし、山の様子もしっかりと観察してほしいと思います。ただ、それらはあくまでも手段であって、一番大切な目的は、周りの自然をいつもとは違った目でみて、また触れてみることで、新たな発見をすること、sense of wonder を持つこと、これが目的です。身の回りにあるものを、何の関心も持たずに当たり前と流してしまうのではなく、常に驚きの気持ちを持って、初めて見たかのようにしっかりと見つめ、その本質を追求するようなマインドを形成すること、それがサイエンスキャンプの目的です。難しいですが、少しでもそれを意識して過ごす3日間にしてくださることを期待しています。