校長ブログ

校長 木内 淳詞 Junji Kiuchi

2021.10.12

『Humankind 希望の歴史』

『Humankind  希望の歴史上・下』という本。最近書店に平積みされていることが多く、『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリと、『人新世の「資本論」』の斎藤幸平氏が推薦しているというオビの宣伝に惹かれて購入し、面白くてすぐに読んでしまいました。
 こと人間観に関する限り、「性悪説」に基いた考え方が多数派を占めるように思います。しかし、この本では、次の「過激な」考えが示されます。すなわち、「ほとんどの人は本質的にかなり善良だ」。この考えを誰よりうまく説明できる人として、オランダのフローニンゲン大学の社会心理学教授トム・ポストメスが紹介され、彼が学生たちに何年も前から投げかけてきた質問のことが記されます。


 飛行機が緊急着陸して、三つに割れたとしよう。機内に煙が充満してきた。早く脱出しなければならない! さあ、何が起きるだろう。

・惑星Aでは、乗客は、近くの席の人々に大丈夫ですかと尋ねる。そして助けが必要な人から機外に助け出される。乗客たちは望んで自分の命を犠牲にしようとする。たとえ相手が、見ず知らずの他人であっても。

・惑星Bでは、誰もが自分のことしか考えない。パニックが起きる。押したり、突いたり、たいへんな騒ぎとなり、子どもや老人や障害者は、倒され、踏みつけられる。

 ここで質問だ。わたしたちはどちらの惑星に住んでいるのだろう。

「おそらく97パーセントの人は、自分は惑星Bに住んでいると考えるでしょう」と教授は言う。「しかし現実には、ほとんどの人は惑星Aに住んでいるのです」。

 過去に起きた大惨事の時に、人々がどう行動したかを実際の目撃者からの証言をもとに記してある箇所があります。タイタニック号の沈没の時に、人々は泣き叫んだり走り回ったりすることはなかった。2001年9月11日のテロ攻撃の時に、燃え盛るツインタワーから避難する時に、人々は命の危険にさらされていることをわかりながらも、静かに階段を降り続け、けが人や消防士が通れるように、脇によって、「お先にどうぞ」と声をかけた。私たち人間は、その善良さと助け合う力によって、他の動物よりも長くこの地球上で繁栄しているのだと思うと、お互いの中にある善なる部分をもっと信用するべきなのかもしれません。子どもたちとも、強制しないと勉強しないとか、厳しく管理しないと何をするかわからないとかいった性悪説的な考えに基づいて接するのではなく、まだ発揮されていないかもしれない善なる部分を信頼して接することの方が、いいのだろうと考えました。ユヴァル・ノア・ハラリではありませんが、私の人間観・子ども観を変えてくれるような一冊でありました。