校長ブログ

校長 木内 淳詞 Junji Kiuchi

2021.01.01

元旦に思う

 元旦に受け取った友人からの年賀状に、村上春樹さんの小説からの引用がありました。その引用の箇所は、私も彼と共通して記憶に残っていて、村上作品の中でも一番好きな『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』からのものです。私は、この小説を何度も読み直していますが、必ずこの箇所に来ると、しばし立ち止まって、今の自分もまだこの言葉に共感するのかを確かめます。今日の私も変わっていませんでした。

 しかしもう一度私が私の人生をやりなおせるとしても、私はやはり同じような人生を辿るだろうという気がした。何故ならそれが---その失いつづける人生が---私自身だからだ。私には私自身になる以外に道はないのだ。どれだけ人々が私を見捨て、どれだけ私が人々を見捨て、様々な美しい感情やすぐれた資質や夢が消滅し制限されていったとしても、私は私自身以外の何ものかになることはできないのだ。

 友人の引用はこれだけでしたが、その少し後の部分も引用しておきます。

 私には不死の世界というものを想像することはできなかった。そこでたしかに私は失ったものをとり戻して新しい私自身を確立するかもしれない。誰かが手を叩き、誰かが祝福してくれるかもしれない。そして私は幸せになり、私の自我にふさわしい有益な人生を手に入れるかもしれない。しかしいずれにせよ、それは今の私とは関係のないべつの私自身なのだ。今の私は今の私自身を抱えている。それは誰にも動かすことのできない歴史的事実だった。

 私は2021年に57歳になります。この小説が刊行されたのが、1990年ですので、私が大学の3回生の時です。もう随分前になりますが、その時に印象に残った言葉が、まだ私の人生の中で記憶に残っているのは、それなりの意味があるのだと思います。今日はそんなことを考えて過ごしました。これも年賀状をくれた友人のおかげですね。