校長ブログ

校長 木内 淳詞 Junji Kiuchi

2020.09.16

『復活の日』

 以前にアルベール・カミュの『ペスト』という小説を紹介しました。まだ売れ続けているようで、書店で平積みにされているのをよく見かけます。他にも新型コロナウイルスに関係するような本がたくさん並べられていますが、私が最近読んだ本を1冊ご紹介します。
 上の写真の本、小松左京氏の『復活の日』です。小松左京氏の『日本沈没』を原作とした映画が大ヒットしたのを覚えていたのですが、この本は読んでいませんでした。たまたまですが、この本が出版されたのが1964年、私が生まれた年です。56年も前に出版された本だとは思えないぐらいに、「今」の私たちを取り巻く状況に合致する様子が描写されています。56年前に収集できる情報は、現代の社会に比べると限られたものだったろうと思われます。当時の情報からこのような小説を書かれたということは、小松氏の想像力が優れていたのだということになるでしょう。
 もちろん、この手の小説は単純なハッピー・エンディングとはなりません。ウイルス禍を大変な思いをしながら生き延びた一握りの人類がいるのですが、よかったね、という声をかけられるような状況ではありません。しかしながら、小説の「読者」の立場である私は、新型コロナ禍にありながら、まだなんとか生活ができている自分やその身の回りのことを考えて、感謝の気持ちがわいてくるのです。普段、何事もないように過ぎていく毎日が、いかに文字通り「有難い」ことなのか、私たちの毎日は安定しているように見えて、実はちょっとした出来事によっていかに大きく混乱したものになる可能性があるのか、ということに気づくのです。以前のブログにも書きましたが、何も起こらない毎日は、誰かが支えてくれているから可能なのですね。
 感染リスクをゼロに、ということは、私たちの力では現実的に困難です。会社感染・家庭内感染が増えている状況を考えると、それだけ世の中に感染している人がたくさんいるということです。気をつけていても、感染することはあります。学校としましては、学校内での感染リスクをゼロにするというよりは、むしろ、万が一感染している人がいても、濃厚接触者とはならない状況を保つことが大切だし、それならば、私たち全員が意識を高く保てば、コントロールできることだと考えています。もちろん、そのことが感染リスクを低減することにつながります。具体的に言えば、マスクを外してしゃべらない、手指消毒を徹底することです。また、自分も感染している可能性があると考えて行動し、周りの人に不安感・不快感を与えない。自分の身は誰かが守ってくれると思わず、やるなと言われていることはやらない。こういったことでしょうか。そうすれば、自分が濃厚接触者になる可能性は、かなり低く抑えることができます。万が一感染者が出ても、学校は短期間の休業だけで、再開することができます。
 優れた物語は、読者の想像力を豊かにし、気づきを与えて、よりよく生きていくことを可能にしてくれます。