校長ブログ

校長 木内 淳詞 Junji Kiuchi

2020.04.25

今後の世界を生きていくために

 ノーベル賞作家のアルベール・カミュの『ペスト』がとてもよく読まれているようです。一時は書店からなくなり、お一人様一冊まで、という表示がされている書店もあります。この小説はナチスの寓話だと言われています。重苦しい基調の小説ですが、興味のある人は読んでみてください。

 高1の皆さんには、そろそろコンピュータが届いている頃でしょうか? 今日はようやく春らしい穏やかな日となりました。いつもなら、様々な綺麗な花を眺めたり、新緑に心弾むような気持ちになる時期ですね。
 しかし、連日の報道に心が晴れず、各家庭内で過ごさねばならない中ではありますが、幸い、私たちの実施している健康調査では、今のところ大きな心配をするような状況は伝えられていません。生徒の皆さんが、不要不急の外出を避けるということを徹底してくれているからだと思います。ありがとうございます。

 さて、すでに学校から伝えられたメール等には書かれていることなのですが、メディアで伝えられていることで気になることがあり、皆さんに私から再度伝えたいことがあります。今のところ本校生徒の健康状態に大きな心配はない、と伝えました。しかし、今の感染の状況を考えますと、嫌なことですが、いずれの時期にか、本校の関係者の中にも感染を確認される人が出ることは避けられません。その時に、あなたはどう行動しますか、ということです。残念ながら、報道によりますと、感染者に心ない言葉を浴びせたり、ここで披露するのを憚られるような行動をしたりする人がいるようです。医療従事者に対する人権侵害事象も起こっているという報道については、我が耳を疑うばかりです。
 4月15日付の朝日新聞に、ヘブライ大学教授で歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏のインタビュー記事が掲載されていました。その中の彼の言葉を紹介しておきます。

 悪い変化も起きます。我々にとって最大の敵はウイルスではない。敵は心の中にある悪魔です。憎しみ、強欲さ、無知。この悪魔に心を乗っ取られると、人々は互いを憎み合い、感染をめぐって外国人や少数者を非難し始める。これを機に金もうけを狙うビジネスがはびこり、無知によってばかげた陰謀論を信じるようになる。これらが最大の危険です。

 誰も感染したくて感染しているわけではありません。ちょっとした想像力を働かせただけで、自分が感染したら、家族が感染したら、どんな状況になり、どんな思いを抱くか、すぐにわかるはずです。ですが、私たちは苦しいことがあると、どこかにその原因を求め、誰かのせいにしてしまう弱さと愚かさを持っています。一方で、周りと連帯することで、考えられないほど大きな力を発揮して、困難な課題を乗り越える力を持っています。大きなことをしようとしなくてもいいのです。しっかりと学んで、教養を身につけることで、今後の世界で生きていくための倫理を備えた人に育ってほしいと思っています。心の中にある悪魔にコントロールされるのではなく、苦しい時こそ周りと繋がることを大切にする人に。