学校長×笠松はるさん(元劇団四季所属)
スペシャル対談

  • 追手門学院中・高等学校 / 学校長
    木内 淳詞
  • 元劇団四季所属
    笠松 はる

追手門学院のOGである笠松はるさんをお招きして、学内を見ていただき、生徒との交流後、学校長と対談していただきました。

生徒諸君とお話していただいて、どんな印象を受けられましたか?

そうですね。皆さん、思っていたより活発に発言してくださるので助かりました。色々な考えを臆せずに発言できるというのは、すごく大切なことだと思いますが、それが出来ない若い方が多いと普段感じているので、今日は嬉しい驚きでした。あれだけ自分の悩みを素直に、皆の前で発言できるのは、やっぱり学校の雰囲気が良いからなんだと思います。

ありがとうございます。当校には現在、「創造コース」というコースがありまして、自己開示も含めて表現コミュニケーションを授業の中でも展開し、自分のことをモノローグで語る取り組みを高校1年の時にしています。それがいわゆる心理的安全性にも繋がっていると思います。

自己開示というテーマに学校として取り組んでいるのですか?すごいですね!

我が校には、「独立自彊・社会有為」という教育理念があります。端的に言えば、「自分を高め、成熟した市民として社会に出ていきましょう。そこで培った力を社会貢献に使いましょう」ということなのですが、自分のことを知らないのに社会貢献は難しいですよね。だから自分の良さや技術・能力を知って社会に活かす。そのための取り組みとして、高校1年から3年まで、「自分を知る」「他者を知る」「社会とつながる」というテーマをそれぞれ掲げて取り組んでいます。

その成果が皆さんに現れているように思います。だから、ああいった場面でも素直に自分のことを語ったり、意見を交わしたりと、快活なコミュニケーションが取れるのですね。

そうですね。創造コースでは、キャリアも自ら選び取っていく方針ですので、志望大学等の聞き取りはしません。進路は、大学進学でも専門学校でも、就職でもいい。学びの中でそれぞれが自分や他者のこと、社会を知った上で選び取っていこうというコース設定にしています。

普通のコースとは少し毛色が違っていて面白いですね。自分のことも周りのことも認める土壌があるのは素晴らしいと思います。すごく生きやすいし、進路選択にも自由がありますよね。それこそ私も、高校3年生の11月にある作品に出会って、志望校を東京藝術大学に変えました。大学ごとに課題曲や好まれる自由曲の傾向も全部変わるので、周りからは「えっ、今?!変えるの???」と驚かれました。東京藝大の入学試験は3次試験まであるんですけど、案の定、準備が間に合わずに2次試験で落ち、浪人して翌年合格を掴み取りました。「受かりました」と報告に行った時には、追手門の先生たち、皆さんに喜んでもらえました!芸事なので、孤独と向き合いながら直向きにやってきましたが、自分の合格報告でこんなに喜んでもらるんだと嬉しかったことを今でも覚えています。

やはり生徒のことは、自分のこと以上に嬉しいですからね。
今ちょうど高校時代の受験のお話も出ましたが、追手門学院に通われて1番良かったことを挙げるとすれば何でしょう?

やっぱり、生徒に考えさせる時間を多くとってくれたことはすごく良かったなと思います。その当時でも、指針は示してくれるけど何かを押し付けてくるわけではなく、自由に考えさせてくれました。その経験が糧になっていると感じます。
あと、デコレーション作りも楽しかったですね。今はもう実施されていないようですけれど、クラス皆で一つの物を作った良い思い出です。それから文化祭の演劇「火の鳥」や、卒業式の金の紙吹雪を在校生たちが切って準備するという風習も懐かしいです。いざ自分が卒業するときに紙吹雪を受けたら、脈々と受け継がれた繋がりを感じてじんときました。

コロナやSDGs等の側面もあって今はなくなってしまったものもあるけれど、今は今で、新たな学校の取り組みが出てきています。一貫して、生徒に「主体性を持って、自分で考えさせる」ことは続いていますね。

そうなんですね、追手門の根っこの良い部分が変わっていなくて嬉しいです。あと、卒業してみて、改めて追手門で良かったなと思うことも結構ありますね。学校法人としてグループが大きいので、年配の方も含めて同窓の方がすごくたくさんいらっしゃいますよね。「追手門卒業」ってことで繋がりを感じて可愛がってくださり、応援に駆けつけてくださる方が沢山います。離れていても繋がって見守ってくださっている温かみを感じますね。本当に有難いことだと思っています。
それこそ、自分が卒業した後、お子さんを追手門に入れたい、という方も多いと聞いています。

確かに先輩後輩や同級生を大事にする土壌はすごくあると思いますね。「追手門」という繋がりの強さを感じますね。
それと先程の笠松さんのお話で大事だなと感じたのが、「自分の好きな分人をきちんと持つ」ということです。これは、作家の平野啓一郎さんの言葉なのですが、本当の自分は一つじゃない。嫌いな自分もいれば、好きな自分もいて、個人とは色んな分人の複合体であるという考え方です。色んな自分がいる中で、「良いと思える自分」の構成比率を上げていく。
笠松さんは、ご自身が子供の頃から思い描いた進路を実現されて、それこそ好きな自分を持ち続け、幸せに豊かに生きておられるようにお見受けします。夢を叶えるため、そしてそれを続けていくために日頃、心掛けておられることは何かありますか? 芸術・芸事には、「これでいい」っていう明確なゴールはないですよね。「ネガティブ・ケイパビリティ」じゃないですけれど、不確実な状況や答えの出ない問題に直面したときに、焦らずにその状態を受け入れて、より深い洞察や創造性を生み出すために意識されていることがあれば教えてください。

今は割とストイックな方だと思います。高校生の頃まではもっとダラダラしていましたよ。でも東京藝大に入るって決めて、「これが自分の道だ」と定めてからは覚悟を持ってストイックにやってきました。好きなことだからこそ、どこまでも突き詰めていけるっていうのはありますが、限度を決めるとか息の抜き方を意識しています。ドライブや犬と過ごす時間、料理やお笑いとか、自分が笑顔になれるものの割合を増やしてバランスを取っています。
ゴールがないというのも本当に先生の仰る通りで…。自己課題や感性も年月と共に変化していくので、作品の表現を作り直したりもします。「足るを知る」と言う言葉がありますけど、あえて「知らない」ようにしている部分もありますね。豊かにありたいと思って生きていますが、仕事や人生は、人とのご縁や運、タイミングで成り立っていることも多いので、見つけてもらえるように、良いメンタルで気運を掴めるように意識しています。

大切な心掛けだと思います。「努力したから今の自分がある」という能力主義的な考え方もある一方で、今笠松さんがおっしゃったように、「見つけていただける。そして、そこで役に立つように努力する」っていう、周りに生かされているという見方も大事かなと思いますね。

はい。それから、「一生懸命やった結果、起きたことは全部最善」と思うようにしています。すごく頑張った結果、駄目だった時は全部意味があると思って。
それが明日なのか、はたまた5年後なのかは分からないけれど、しばらくして振り返った時に、「あの時失敗して良かったな。だから今の自分があるな」と思える日が絶対に来る。だけど、納得できる位頑張れていなかったら、ここで起きた事は全部自分のせい。そうならないためにやれるだけやって、後悔しないように生きるようにしています。

普段、学校で生徒たちに言っていることと繋がる部分が垣間見えて、とても嬉しいです。出会いや縁というお話もありましが、追手門ではどんな出会いやご縁がありましたか?

そうですね。先日も大阪で公演があったのですが、会いに来てくれる友人がみんな高校時代の友人なんです。それこそ私に公演のチケットを頼んでくれてもいいのに、わざわざ抽選に申し込んで、「第一希望ハズレたけど、第二希望が当たったから行くわ」って連絡をくれて、皆で来てくれるんです。中には卒業以来、ずっと会えていない子もいるんですよ。やっぱり大阪に帰ってきても、友人全員に会えるわけじゃないので。ほとんどSNSでしか繋がっていなくて、たまにメッセージのやり取りをするだけの子でも、公演に駆けつけて「めっちゃ良かったよ」って喜んでくれます。そういう一生の友を持てたということが、何にも変え難い宝物です。
思い返せば在校している時から、何者でもない、ただの高校生の私が歌う歌や演技に対して「素敵だね」「すごいやん」って言ってくれていた気がします。そうやって日常から、周りの友人に自分の好きなものを承認してもらって、大事にしてもらえた高校時代があったからこそ、今の人生を選べたのかもしれません。私が芸事やパフォーマンスをすることに関してすごくポジティブに感じられる雰囲気だったのは、学校のおかげだと思っています。
それぞれの個性や主体性を大事に伸ばすという学校の空気感に支えられました。それに、心から楽しいと思える音楽の授業や不意の質問や相談にも親身に応えてくれる先生たちのおかげですね。

年月が経ってから、何かのタイミングでの出会いや、会いにきてくれるって言うのはすごく嬉しいことですね。「出逢い直し」という言葉が私は好きなのですが、色々なところで活躍されている追手門の卒業生の方が、それぞれのお仕事を全うされている中で、ご縁を結び直すのを見るとすごく嬉しくなりますね。これからも笠松さんのご活躍を楽しみにしております。本日はありがとうございました!